名古屋大学読書サークル

サークルメンバーがゆるりと記事を書くスペースです

今年読んだ本など 【5月から8月まで 編】

〜前回〜

 

meidaidokusyo.hatenablog.com

 

 

皆さんいかがお過ごしだろうか。

一年生も大学生活に慣れて、というか宿題の概念がない夏休みに慣れて、弛緩し切ったダルダル大学生へと変貌を遂げたころではなかろうか。そんなお前、お前は終わりだ。そうでない人は、そのまま頑張ると良いことがある場合とない場合があるぞ。

という訳で備忘録、続きます。

 

・: 読書会でやった本

☆: その月一番良かった本

★: 次点

無印: 特に言及がない場合、ふつう

 

書評と言うには中身がなさすぎる感想(独り言)付き。

 

もくじ

 

【5月】

GWはシュルレアリスム強化週間にしようと思い立ち、シュルレアリスム運動周辺の作家をピックアップして読んだ。

 

★人間そっくり 安部公房

自称火星人のセールスマンが家に上がり込む。その主張は二転三転するも不思議と筋が通っており、翻弄される主人公は次第に自分が何者なのかわからなくなっていくーー。という内容。

小説の殆どが主人公と自称火星人の会話劇で占められており、静かながら非常にスリリングに物語は進行する。自称火星人の言動から彼の心理を全く読み取れず、怖い。

 

文体練習 レーモン・クノー

クノーは後述するブルトンと親交があったが、すぐに絶交したため、シュルレアリストではない。しかし、実験文学作家ではあった。

そんなクノーの代表作がこの文体練習である。「1日に同じ男を二度見かけた」というだけの内容を99の文体で執拗に繰り返すだけなのだが、あまりにも無理がある文体が頻発しており面白かった。

ちなみにフランス語学習者の教科書の定番らしいが、これを訳して本当に勉強になるのだろうか。なるんだろうな。

 

シュルレアリスム宣言・溶ける魚 アンドレ・ブルトン

ブルトンこそがシュルレアリスム運動の発起人である。シュルレアリスムという言葉自体はブルトン以前にアポリネールという前衛詩人が造ったものの、現在一般的に言うシュルレアリスムブルトンが提唱したものである。多分。

シュルレアリスム宣言」は引用で喋るタイプのオタクの文であり、開始数ページでドストエフスキーをディスっており爆笑してしまった。なんかコイツは嫌な奴なのではないか?と思ったが、その後の短編集「溶ける魚」はとても美しい夢のような文章だったので彼は多分良い人だと思う。と思ったけど、シュルレアリスム創始メンバーのほぼ全員が彼の元から離れたらしいので、本当に嫌な奴っぽい。

また、自動筆記(シュルレアリスム特有の技法)は確かに文章としては面白いが、それはその時点で自分の中に存在するものの組み合わせでしかないため、同時期に何作も書くために使う技法ではないなとも思った。更に言えば、文章にする時点でいくらかは理性の制御下にあるわけだから、真の超現実への到達は困難ではないかと思ったが、まあそんな批判は今までにいくらでもあるんだろうな。

 

熱帯 森見登美彦

同作者の「夜行」と少し似ている。特に伏線を回収することなくぼんやり終わった「夜行」と比較してちゃんと伏線を回収してるし、多重入れ子構造なのも面白い。......はずなのだが、不思議と盛り上がりに欠ける。

内容は作中で言及される千一夜物語の他に、(元々そうではあるが)ボルヘスなどのマジックリアリズムの影響が強い。

 

ジョン・レノン対火星人 高橋源一郎

「偉大なるポルノグラファー」である「私」の元に、ある日突然「花キャベツカントリイ殺人事件」の首謀者「素晴らしい日本の戦争」から手紙が届く。彼は頭の中に死体が住み着いているというのだ。そして「私」は「素晴らしい日本の戦争」の治療を始める......。というシンプル(?)な話なのだが、固有名詞や表現が変化球すぎてなんのことやらわからない。しかし名作だと思う。どうしようもない暴力性・衝動性が、奇跡のような迫力を生み出している。気がする。

ちなみに作中でジョンレノンと火星人が出現することはない。

 

華氏451度 レイ・ブラッドベリ

本が禁止された世の中の話。ただの読書礼賛になっていないのが良い。

言わずと知れたディストピア文学の名作なのだが、主人公の上司ベイティーがこの作品の魅力の7割を占めていると思う。ベイティー最高。ベイティーだけでご飯3杯いける(???)

今回読んだのは新版なのだが、Firemanを昇火士と訳すセンスが良いなと思った。(ちなみに他の版は焚書官と訳してあるらしい。全然印象が異なる)

 

 

見た映画

ショーシャンクの空に フランク・ダラボン

脚本と演出が巧い。映画の人気投票か何かで一位に選ばれたらしい。確かに良い映画だが、上位に食い込むにしろ、一位に選ばれるほど良い映画ではないだろとは思う。しかし、じゃあ何が一位かと訊かれると困るので、ショーシャンクの空にが一位でいい気がしてきた。

 

行ったライブ

Thundercat

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Thundercatはバカテクベーシストで、グラミー賞を取るなど非常に高明な人物なのだが、格好がどう見ても浮浪者にしか見えない。「全身グッチで固めて浮浪者に見える唯一の人物」というYouTubeのコメントがあるくらいである。

で、ライブ当日はどうだったかというと、赤い任天堂のTシャツに、エヴァンゲリオンのアスカがプリントされた真っ赤な6弦ベースを持っていた。やばいオタク......!

 

 

【6月】

インターンのES書かないとな〜と思いながら読んだ。ESを書け。

 

天人五衰 三島由紀夫

ようやく豊饒の海を読み終わりました。長かった......。

良くも悪くも三島の手癖が爆発しており、登場人物が己の役割をシステマティックに果たし衝撃の結末を迎える。かなり賛否両論別れると思うが、私はめちゃくちゃ好き。みんなで終わりを見届けよう。そのために全4巻読もう。

 

 

ジョゼと虎と魚たち 田辺聖子

文章がとても好みだな、と思った。が、普段小説で文章を気にいることがほとんどないので、何が気に入ったのかはよくわからない。お気に入りの文章、沢山見つけたいね。

映画化もされているのでてっきり長編だと思っていたのだが、短編集だった。働く女性とその周りの男、みたいな同じような舞台設定の短編が主であった。面白いが、大体同じなので胃もたれしないと言ったら嘘になる。そしてぐったりしつつある後半に毛色の違う表題作(とても良い)が挿入されることで、なんか全体的にいい物を読んだ気分になった。

 

他人の顔 安部公房

安部公房の失踪三部作の一つ。実験中の事故で顔を無くした研究員が、作り物の顔を新しく作る話。そしてその顔によって引き出された自分の隠された心理に振り回されていく......という内容。全編が主人公の手記という、やや特殊な形態。

私たちも服装が変わると振る舞いが変わったりするが、そのどれが本当の自分なのだろう。どれも本当の自分と言ってしまうのは簡単だが、そもそも本当の自分なんてものは存在するのだろうか?

 

読んだ漫画

わたしの人形は良い人形 山岸凉子

たまには少女漫画でも。

私は男だが、赤髪の白雪姫とか、ダークグリーンとか、少女漫画もそれなりに好きなのだ。というか女性が少年漫画読む時代なんだから、男性も積極的に少女漫画を読むべきなのではないか、私はそう思う。いや、全然そうは思わないね。好きにしたらいいんじゃないかな。

表題作は市松人形を巡るホラー漫画。サイキック美少年が念力的なサムシングを使っており困惑したが、まあホラー漫画ってなんでもありだからな。

 

永沢君 さくらももこ

ちびまる子ちゃんのサブキャラの中でも家が燃えることに定評がある永沢君の中学時代を描いた漫画。なのでとことん卑屈で嫌味な内容になっているが、中学生なんてそんなもんだったような気がしないでもない。わからない。断言するには歳を取りすぎた。

欄外やおまけページがとにかくナンセンスで、さくらももこサブカルの女王だったのを思い出した。

 

宝石の国 市川春子

人間ではなければ幾らでも破壊描写をしていいという業界の不文律でもあるのだろうかと思うくらいに主人公がろくな目に遭わないのだが、解脱のためには致し方ないね。そう、かわいい宝石の擬人化漫画だと思ってたんだけど、アフタヌーン連載だったの忘れてた。めちゃくちゃアフタヌーンアフタヌーンしてるね......。

 

見た映画 

スタア 内藤誠

筒井康隆の同名の戯曲を映画化したもの。サスペンス的な筋書きかと思いきやスラップスティック的な展開になり、オカルティックな地震学者の登場によりなんでもありの筒井流SFワールドに突入。最終的にドリフみたいになって終わる、めちゃくちゃな映画。

筒井康隆とその愉快な仲間たち(タモリ山下洋輔坂田明)が出演しているのも見どころ。

 

 

【7月】

流石に就活に本腰を入れ始めたので本を読む時間が激減した。こんな時期から活動し始めないと就職できない世の中、間違ってるよ......。

と思ったが、後半ストレスでプッツン(死語)してしまい結局いつも通り読んだ。

 

★沖縄文化論集

沖縄に行く用事ができたので読んだ。

旅先の歴史を学んでからまわるのとそうでないのとではやはり解像度が違うなと思った。皆さんも旅先の郷土資料を片手に観光してみては如何か。

 

☆N/A 年森瑛

芥川賞候補作品。

主人公は生理が嫌で食事をあまり取らず、「かけがえのない他人」が欲しくて同性と付き合う。それでいて拒食症やレズビアンというレッテルを貼られるのに不服な様子。だが客観的にみたらそう分類せざるを得ないし、カテゴライズされずに・せずに生きていくのは難しい。どうしたらいいんだろうか。

まだ一作しか作品がないので判断が難しいが、最近出たちくまのエッセイなどを見る限り、年森瑛は私の好きな作家になる気がする。

 

さようなら、ギャングたち 高橋源一郎

ジョン・レノン対火星人」の衝撃が凄まじく、もう一冊読んだ。こちらはより感傷的でそれはそれで良い。

 

ペンギン村に陽は落ちて 高橋源一郎

3冊目。私は最早氏のファンなのではないだろうか。

ドラえもんサザエさんといったお馴染みのアニメキャラクターによる最悪な話が展開されるのだが、これ、怒られなかったのだろうか? 怒られてくれ。

 

困った綾とり 佐江衆一

戯曲。なんか病気で参っちゃったお父さんをサイコドラマ療法で治すのだが、家族の誰も協力的でない。めちゃギスギスした家庭だね。

つまらないわけではないが、面白いわけでもない。

家庭の雰囲気に時代を感じる。それもそのはず、50年前の演劇だからだ。逆に今、同様のシチュエーションで演劇を書いたらどうなるのか考えてしまう。

 

読んだ漫画

チェンソーマン 藤本タツキ

流行り物を読んだ。これでみんなと共通の話題が一つ増えた。最近は話題に困ったらとりあえずチェンソーマンの話ししてる。

物語後半で展開される絵が良い意味で少年誌とは思えない。ファンシーなガロだろ。永井豪デビルマンとかも当然意識しているのかな? なのにちゃんとエンタメとして成立してるのがすごい。こんなこと1000000回くらい言及されてそうだな。

ファミリーバーガーの回が一番好き。ファミリー!

 

見たアニメ

フリクリ 鶴巻和哉

全く流行り物でないものを見た。これでみんなと共通でない話題が一つ増えた。北米のナードの間では人気らしいので、北米のナードとは仲良くなれるかもしれない。

エヴァンゲリオンで有名なガイナックスが2000年くらいに出したOVAで、自社制作なのをいいことに好き勝手やっている。演出が本当にただやりたいからやってるだけで、マジでなんの意図もなさそう。好き勝手やりすぎでは? ただ作画と脚本がかなりしっかりしているので、全体としてはよくまとまっている。

 

 

【8月】

就活で生きる力を全て使い果たしてしまい、何もできなくなったのでたくさん本を読んだが、本を読む以外のことはほとんどできなかった。私はこの先生きていくことができるのか?

 

城 フランツ・カフカ

かねてより私には「未完の大作」というものに憧れがあった。夏目漱石の明暗とか、太宰治のグッドバイとかね。特にカフカの城は友人に薦められたので、読んだ。

測量士として雇われた主人公が役所(城)や村の人々にたらい回しにされ続ける」というだけのことが600ページくらいグダグダ続く。そしてそのグダグダ具合が面白い。未完でも全然読める。だからみんなも未完小説を恐れずに読もう。

 

ねじまき鳥クロニクル 村上春樹

僕は村上春樹の小説が好きかもしれないし、あるいはそうではないかもしれない。だから彼の最高傑作との呼び声高い本作を読む必要があった。

この小説は確かに実験的で面白い。オーケー、それは認めよう。でも僕はやはり彼の思想とは根本から相容れない(それは僕が猫用の長靴を履けないのと同じようなものだ)し、だから彼の小説を読むのはこれで最後だと思う。僕はあくまで僕であって、猫ではないのだ。残念ながら。おそらく。

 

↑とか、それっぽい文を書こうとすると、村上春樹の比喩の巧さがより際立ちますね。

 

・☆おいしいごはんが食べられますように 高瀬隼子

芥川賞受賞で今最もナウい! タイトルが悪意に溢れている。もしくは切なる祈りかもしれない。

同僚の二谷くんと押尾さんが、仕事はできないけど愛されキャラの芦川さんにいじわるしちゃうぞ。

ポリコレが重要視される昨今、頑張れない人の陰でその分頑張れてしまう人がいるわけで。でも頑張れない人を切り捨てる訳にもいかず、みんなで守っていこうというこの風潮がねえ。自分が不利益被らない人間はなんとでも言えるしそれが正義だから良いよな〜〜!!!! ......と思ってしまいましたが、そもそも私が「頑張れる人」である保証などどこにもなく、だからといってニコニコ見守るのも気持ち悪いというか、私は私に正直でいたい。という点で押尾さんに共感していた。

二谷と押尾の視点が交互に描かれるのだが、「頑張れない人」である芦川さんの視点が欲しかったかも。でも、ないからこそ露悪的に描けるのかも、とも思う。

あとパートのおばさん特有のウザさの解像度が高すぎる。

 

愛・地球博公式ハンディブック

懐かしいし100円で売ってたので買った。

死んでいいか? 私は愛知県民だったので、それはもう何度も愛知万博には行った。私の5歳の記憶は愛知万博によって100%占められていると言っても全く過言ではない。当時最先端の技術とかね、色々見た訳よ。もう記憶の奥底にこびりついてるんすよ。それが、こんな、ちゃちな、ハンディブック一冊に収まるはずが、収まってるね。。。

もう読んでると死にたくなってくるんすよ。私が17年前に抱いた夢や希望を、私は17年かけて完全にすり減らしてしまったんだなって。絶望ですよ。この先どういう気持ちで生きていけばいいの????

さらに言えばね、「地球市民村」とか、「千年共生村」とか、洒落臭い言葉が出てくる訳。私の知ってる万博にはそんな洒落臭い言葉は登場しないはずなんすよ。これ以上、美しい、私だけの思い出を汚す訳には行かないので、焼却処分した。嘘。

 

音楽 三島由紀夫

近親相姦や精神分析などなど、いかにも三島由紀夫が好きそうな題材だなあ、という印象。患者の不感症の原因を探るところまではミステリー感覚で面白く読めるものの、引っ張った割には結構あっさり解決してしまったのでやや残念に思う。

ちなみにこれで借りた本(コレと豊饒の海)が返せる。1年以上借りてたね。なげえよ。

 

移動 別役実

日本の演劇界には60-80年代にかけて小劇場ブームというのがあって、その第一世代の筆頭に早稲田小劇場という劇団があった。そこ出身の劇作家が別役実である。日本において不条理演劇を確立した凄い人らしい。同世代の唐十郎寺山修司がウェットな作風であるのとは対照的に、かなりドライな作風(?)。

これも戯曲で、ある一家が家財道具一式を荷車に乗せて、無機質な電信柱が並ぶ道をただひたすらに移動する話。

家財道具や家族、自分自身を犠牲にしてでも前に進み続けなければならないというのは、厳しいがこれが現実だよなあと思う。現代を生きることは、消耗し続けることなんだよな、悲しいことに。なんか洒落臭い文章になってしまった。恥ずかしい。こんだけ書き散らしといて今更恥ずかしがることか、とも思う。

 

 

ウエー−新どれい狩り 安部公房

安部公房の初期戯曲「どれい狩り」の改作。どう見ても人間にしか見えない珍獣ウエーを飼うか飼わないかで一悶着するが、そもそもウエーが人間でなくウエーであること、人間がウエーでなく人間であることとは何なのか。ウェー。

基本的に「人間そっくり」と同じように、人間が人間であるという証明、人間とは何かというのが主要なテーマ。ただ、現代だったらゲノム全部読めば人間か人間でないか大体解析できてしまうよな、と思ってしまった。本当につまらない時代になったなと思う。あるいはゲノムが全く人間的でも、振る舞いが人間的でない場合を考えるべきか。

ちなみにウエーは劇中で「ウェー」とか「ウェッ」とか「ウェイ」とか鳴くので、インターネットミームにおける陽キャじゃん......と思ってしまった。ウェイウェイ。

 


読んだ漫画

あなたはブンちゃんの恋 宮崎夏次系

宮崎夏次系作品はただでさえぶっ飛んでるのに、長編は後半になるにつれて超展開すぎてついていけなくなりがちなのだが、今回は比較的上手くまとまってる気がする。過去作の中で一番読みやすいので、彼女の作品を読みたい人は最初に読むのにいいんじゃないだろうか。

秀吉が一番可愛い。暴走ニンニク豆腐さんが一番無気力。暴走ニンニク豆腐って、マジで何?

 

見た映画

ソナチネ 北野武

北野武の初期傑作映画。東京ヤクザが沖縄ヤクザの抗争に巻き込まれるぞ! 沢山人が死ぬ。

唐突に銃撃戦が始まって、直立不動で拳銃撃ち合ってるだけなのにめちゃくちゃ面白い。これは一体何なんだろう? 本当に唐突に人が死ぬので、全ての言動が死亡フラグに聞こえる。それが作品全体の緊張感の異常な高さに一役買ってるように思う。

 

 

 

とまあこんな感じです。

日本文学と海外文学を交互に読みたかったのですが、普通に日本文学ばっか読んでしまいました。うっかり。

さて次回は年末ですね。一年経つということで、年間ベストとかも同時に出そうかなあと思っています。気合いがあれば。

 

まあ、気合いなんて、私には、もうないんですけどね......。

 

書いたひと:榊原