名古屋大学読書サークル

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今年読んだベスト3

こんにちは、イシです。2023年ももうすぐ終わりますね。

そこで、今年読んだ本の中で印象に残っている3冊を紹介したいと思います。(今年発売というくくりではありません)。

 

同志少女よ、敵を討て(逢坂冬馬)

なんと刊行は2021年。実は刊行されて新刊のブースに並んでいるのを見て、衝動的に買った1作なのですが、実は今年読みました。不本意にも寝かされていた理由は、自分が普段、喫茶店など外で本を読むことが多いため単行本サイズは持ち運びにくいというもの。それが、ある読書好きの人と話していたときに「あの本読んだ?」みたいに聞かれて、「積ん読状態なんですよね」と答えたら、「感想教えて」って言われたのが読んだきっかけです。もともと読もうとしていた予定に割り込む形で読んだことを覚えています。

内容は衝動買いしただけあって僕好みでしたね。表面で書かれるのが歴史だとしたら、裏側を描くのが文学。歴史という抽象的な面は習っても、そのときの個人の感情は教えてくれない。教えられたとしても、それはつらい経験をした人のうちの多数派の意見。マイノリティのマイノリティの悲劇には誰もスポットを当てない。そんな暗部に光を当てる1作でした。

逃亡者(中村文則

この作品は、今年の九月に文庫版が出版され、それを機に読みました。先ほどの話ともかぶりますが、これも戦争の話です。話の主題は太平洋戦争末期の日本軍を鼓舞した、トランペッター鈴木のトランペットを狙う連中から逃げるというものです。話の中には中村文学らしい不条理な場面とか、人種差別等戦争以外の内容も登場するのですが、僕が特に着目したのはp410~p513の鈴木の手記の部分です。彼は普通の青年でした。音楽を愛し、小さい頃から音楽の教育をされ、特に異国の音楽であるジャズを得意にしていました。彼には想う人もいて、そして想われてもいました。ただ、全てが戦争で壊れ去りました。全てがです。ジャズは軍歌に変わり、戦地での悲惨な状態や非情な命令を目の当たりにし己を失っていきます。明日死ぬかも分からない戦地に自我を保てないものたち。道徳心の欠落。それを見て壊れていく自分自身。私は何者なのか。彼はその気持ちの全てをトランペットにのせて。

あまりにもリアルで人間味のあふれる情動に無量の感を来すことになるでしょう。

鏡の古城(辻村深月

この作品も最初に手に取ったのは発売されて間もない頃です。まだ高校生だった記憶があります。当時はハードカバーのものしか出版されておらず、当時の自分にとっては金額的に躊躇する気持ちがありました。

それが文庫本になって映画化もされて、それからしばらくときがたってから読んだのですが、きっかけ自体は忘れてしまいました。ただ記憶にあるのは、僕自身が精神に関する問題に興味があり、「かがみの孤城」のポスターがゲートキーパー(自殺等を思いとどまれるような最終的な相談窓口というイメージです)とコラボしていたことです。そこから内容に少し察しがついて読み始めました。

少しミステリー調なんですかね。上下巻併せてそれなりに長い作品だったと思うのですが読む手が止められなかったです。少し酷な言い方かもしれませんが、扱っている問題自体は(僕にとっては)既存のもので共感性などもなかったのですが、感動に近い感情の動きによって心を揺さぶられたことを覚えています。この話は途中までがミステリー、最後は感動話といった感じでしょうか。

準グランプリ

ベストスリーには入れなかったものの、僕の読書生活の中で大きく影響を与えた作品を紹介します。感想についてはまたどこかで触れるかもしれないので割愛させていただきます。