今年から何を読んだか、何を見たか全部記録することにした。私は記憶力がカスなので、何を読んだかなどすぐに忘れてしまうためである。
小説を含む創作物は本来読者の人生を捻じ曲げる力を持ちうるのに、ただ消費して忘れるだなんて作者も浮かばれないし、何より読んでてつまらない。そんなものは読書じゃなくてただの作業だ。私は最大限捻じ曲げられてやるから、かかってこいや。
......という体のただの備忘録である。
ではどうぞお手柔らかに。
・: 読書会でやった本
☆: その月一番良かった本
★: 次点
無印: 特に言及がない場合、ふつう
感想になっているのか、なっていないのか、よくわからない書評付き。
もくじ
【1月】
卒業研究が大詰めで辛く、かと言って詰まる成果がない現実も辛く、現実逃避がてら割と読んだ。
・斜陽 太宰治
落ちぶれ貴族物語。なんか文章が艶かしくて良かった。と思ったら部分的に太宰の愛人の文章だったという衝撃。
・人形の家 イプセン
発表当時、フェミニズムの勃興と共に激推しされてたらしいが、この本の主題は女性の解放ではない。誤読が世論を動かす場合もあるのだなあと勉強になった。
★奔馬 三島由紀夫
三島由紀夫の遺作、「豊饒の海」の第二巻。極右の青年が主人公なのだが、どうしても三島由紀夫と重ねてしまう。この本でもそうだが、三島は理想と現実の相剋に苦しんでいたように思える、私が勝手に思っているだけだが。
豊饒の海はラボのポスドクに貸してもらったのだが、それから一年経った今なお読み切れていない。お前の任期が満了するのと俺が読み終わるのと、どっちが早いか勝負だ!(早く読め)
☆あゝ、荒野 寺山修司
映画「田園に死す」(後述)を年始に見て感動したため、読んだ。寺山修司唯一の長編小説。爽やかな表紙からは想像できないくらい泥臭く薄暗い小説である。どうしてこの表紙にしたのか、マジで意味がわからない。編集者のセンスを疑うレベル。
一応ボクシング小説ではあるが、主人公の叔父の話や、父親と自殺クラブの話などが並行して描かれる。自殺クラブってなんだよ。
ラスト1ページはかなり賛否が分かれると思うが、私は好きだった。
愛なき世界 三浦しをん
研究室ラブストーリー。卒論が迫っているのに碌に成果が出ておらず、研究が辛くなったため甘いラボ生活でも夢想しようと思い、読んだ。そしたら作中でも研究が上手くいっておらず、泣きそうになった。
研究者の描写がステレオタイプ的なのが気になるが、物語の着地の仕方はなかなか今風で面白いと思う。言ってることは陳腐だけど。
予告された殺人の記録 ガルシア=マルケス
マルケスといえばノーベル文学賞作品でもある「百年の孤独」が一番有名なのだが、長すぎてマルケス一見である私には敷居が高く、短い「予告された〜」をとりあえず読んだ。
ある男の殺人と、その周りの人物を淡々と描写してるだけなのに面白い。不思議。
夢先案内猫 レオノール・フィニ
可愛い猫ちゃんが出てくる本が読みたかったので読んだ。(犬派? 犬派のお前は何も分かっていない。)
が、ふわふわした夢のような展開の末、マジで意味のわからない終わり方をしており、非常に困惑した。可愛い猫ちゃんは?
後で作者を調べたらシュルレアリスム画家でした。通りで......。
砂の本 ボルヘス
ボルヘスが晩年に刊行した短編集。過去の自分と遭遇する話など、彼らしい夢想的な短編が沢山入っている。
ところで、私が小学生の時に愛読していた「パラドックス事件簿」という児童書シリーズがある。その中には表題作である「砂の本」をモチーフにした話があった。そしてそれをいつか読もうと子供心に思っていたのだが、それがこの度ついに叶ったのだ。夢を叶えるのに必要なのは、お金なんやなあ(カス)。
パラドックス事件簿シリーズはこれ。
博士と子供たちが探偵的なことをする、名探偵コナン方式の短編集。
博士は顔がキモい上に「ニョホホ」と笑うので、キモさが倍増している。内容はめちゃくちゃ真面目な数学の話なので安心して読んでほしい。
見た映画
普段映画は全然見ないが、年末年始くらいは優雅に過ごそうと思い、見た。
田園に死す 寺山修司
......優雅に過ごそうと思ったが、この映画は全然優雅ではなかった。
寺山修司の自伝的映画だが、主要人物が白塗りだったり、雛人形が川の上流から流れてきたり、画面が突然緑色になったり、イカれた演出が満載である。表面的な意味でのリアリズムはこの映画には存在しない。
そう、この映画は映画という名の虚構であり、少年の日の思い出もまた、現在の自分が嘘で塗り固めた虚構に過ぎないのだから......
だがそうであるが故に美しく、新年早々泣いた。
......それっぽいことを書いてみたが、皆さんはどう思うか。
ロシュフォールの恋人たち ジャック・ドゥミ
「田園に死す」に感情をぐちゃぐちゃにされたので楽しいミュージカル映画を見た。
ダンスは結構バラバラな上、脚本もベッタベタなのだが、音楽や街並み、パステルカラーで統一された美術がそんなことは些細なことだと言わんばかりに美しい。
この映画もこの映画で虚構に塗れており、「田園に死す」とその点で同じなのだが、表現が対照的で面白かった。(「田園に死す」が異常なだけなのだが。)
「ロシュフォールの恋人たち」の劇伴はジャズピアニストのミシェル・ルグランによるもので非常に洒落ている。映画冒頭で流れる「キャラバンの到着」「双子姉妹の歌」は名曲。
ローマの休日 ウィリアム・ワイラー
説明不要。
何度見ても良い映画。
【2月】
卒論提出やら卒論発表やらで辛かったので、現実逃避がてら読んだ。
おしまいの日 新井素子
俺もおしまいだから......と思い、読んだ。
仕事中毒の夫とメンヘラ妻のドメスティックサイコホラー。そんなに面白くない。
新井素子は発想がぶっ飛んでいるので、もっとファンタジーしている作品の方が彼女らしさを味わえると思う。同時期の作品だと「くますけと一緒に」とか。
★リア王 シェイクスピア
たまには戯曲でもと思い、読んだ。
偏屈老人と化したリア王が、娘や家臣に愛想尽かされたり尽かされなかったりする話。リア王と道化師の掛け合いが漫才みたいに面白く、終始爆笑していた。
現代で言うところの介護問題を1600年台のシェイクスピアが戯曲化しているのだから、老いた親の処遇は人類の長年の課題なのだろう。頭の痛い話である。
古典かつ戯曲なので、なかなか手を出しにくい作家ではあるが、シェイクスピアはこんな感じで結構現代に通底する面白さがあるのでおすすめ。
飢餓同盟 安部公房
安部公房全作品制覇を目指しており、その一環で読んだ。(私は数多存在する作家の中で、安部公房が一番好きである。)
田舎で除け者扱いされている人たちが村を乗っ取ろうとする話。
安部公房は人間の狂気の部分を描くのが本当に上手いと思う。読んでて気分が悪くなる。もちろんいい意味で。
とてもどうでもいいが、主人公が同級生と同じ名前だったので、そいつの声で再生されてしまった。小説にまで出てこないで欲しい。
・夢十夜 夏目漱石
題にあるように、夢の話が10日分。
夏目漱石ってこういう話も書くんすね! という驚きがあった。が、普段の作風の方が好き。
☆武満徹エッセイ選 武満徹
武満徹、俺はお前の音楽が好きだ.....と思い、読んだ。
現代音楽作曲家、武満徹のエッセイ。最高。音楽やってる人間には全員読んで欲しいのだが、そうでなくとも日本人には是非とも読んでほしい。音楽という側面から日本とは何かを考え、その上で武満徹は何を目指したのかを読み取るのは、大変意義深いことだと思う。
まあ、この本で主に言及されている「November Steps」という曲が傑作かと言われると、別にそうではないのだが。
第四間氷期 安部公房
安部公房全作品制覇を目指して。
予言機械を発明した博士が酷い目に遭い、そして人類の未来は如何に、的な話
安部公房といえば「砂の女」や「壁」といった不条理文学・純文学作家のイメージが強いが、実はSFにおいても優れた作品を残している。
この「第四間氷期」は日本最初の本格SF長編とも言われている。当時SF黎明期だった日本で、このような強度を持った、アメリカ的なスペースオペラではないSF小説が生まれたのは幸運なことだと思う。(私のあらすじ説明が雑すぎて何も伝わらないのが残念だが。いやあ、残念残念。)
こういうところに日本SFの源流があると分かり、とても嬉しい気持ちになった。
やったゲーム
OMORI OMOCAT
私はゲームが苦手なので全くと言っていいほどやらないのだが、卒論終わって特にやることがなくなったのでやった。
マザーっぽいグラフィックに、ゆめにっき的な世界観を少年期のエモさで包んでる感じですかね。マザーもゆめにっきもやったことないからわかりませんが。
まあまあ面白かった。
見たアニメ
卒論発表も終わり、かなり気が大きくなっていたためアニメ一気見をした。ちなみにアニメも普段は全然見ない。
映画もアニメも見ず、ゲームもせず、私は普段何をしているのだろうか。 呼吸?
地球外少年少女 礒光雄
電脳コイルの礒光雄監督最新作、というかあれから15年ぶりの2作目。
少年少女が民間宇宙ステーションでサバイバルしてるな〜と思ったら、最終的にめちゃくちゃスケールのデカいAIモノのSFになっていた。
礒光雄は徹底して子供のための話を書いているが、子供騙しでなく、本気で楽しませようとしてくるので大好き。
電脳コイル 礒光雄
地球外少年少女が良すぎたので、監督の過去作を振り返り。この頃から先述した主義が一切ブレてないのですごい。
【3月】
-なし-
読んでない! 正確に言うと、読み切れなかった!!
旅行やら卒業式やら社畜になる友人を煽るやら大学院入学手続きやらで普通に忙しく、本を読む時間と体力がなくなり、ついでにお金がマジでなくなった。
なので漫画をちょっとだけ読んでお茶を濁すことにした。
読んだ漫画
AKIRA1-6 大友克洋
絵はすごいけど、話とっ散らかりすぎて爆笑してしまった。しかし本当に絵がすごいので、それだけで最後まで読めた。
まあそんな感じなので、これはどういう話なのか? と問われると、なかなか難しいのである。
スピカ 羽海野チカ
「ハチミツとクローバー」や「3月のライオン」で有名な羽海野チカの初期短編集。とてもよかった。
羽海野作品はややポエミーなところが苦手なのだが(小っ恥ずかしくなるので)、短編だとそれくらいが丁度よかった。
【4月】
大学院入学してからも書類やら何やらで普通に忙しかったが、頑張って読んだ。でも本来は頑張って読む必要なんてないはずなのにね。それこそ冒頭で言った作業ではないのか? 私はミイラ取りに行ったはずがミイラになってしまったのか?
☆ペスト カミュ
読みきれなかったが、3月中はずっとこれを読んでいた。コロナ禍に通ずるものがあるとか、そういうのは1000万回くらい言及されて皆さん飽き飽きしていると思うので、ここでは言わないことにする。というか、この作品におけるペストというのは病魔ではなく、もっと別なものの暗喩(という解釈が主流である)なんすよね。まあそのまま取っても十分面白いので、それはそれで良いと思うのだが。
珈琲店・恋人たち ゴルドーニ
ペストがかなりハードで疲れたので、箸休めに読んだ。男女がひたすら痴話喧嘩してるだけの戯曲が2本。面白いが、面白い以上の感想がない。
痴話喧嘩ってめんどくさいね、やっぱ誰とも付き合わなくていいや〜と、現状肯定の道具にした(するな)。
暁の寺 三島由紀夫
豊饒の海第3巻。借りたまま一年経過したのは普通にヤバいので読んだ。
豊饒の海は全4巻で、1・2巻は人間をかなり理想的に描いていたのが3巻の後半から理想は息を潜め、遂に人間の醜さを描き始めたなあという印象。この後どういう結末を迎えるのかとても楽しみ。
★けものたちは故郷をめざす 安部公房
安部公房全作品制覇を目ざして。
第二次世界大戦後の満州から、まだ見ぬ「日本」を目指して命懸けの移動をする少年の物語。この本に限らずだが、安部公房は認識の話を書くことが多く、「けものたち〜」では「日本」とは何なのかというのをテーマとして扱っている、と思う。
と漠然と思うだけなのは、読み終わった結果、私にとっての日本が何なのかわからなくなったからだ。安部公房の作品を読むたびに、分からないことが一つずつ増えていく。全作品を制覇したら、多分何もわからなくなる気がする。来年の今頃、路上で喃語を発しながら彷徨う大学生がいたら、それは私かもしれない......。
ファイト・クラブ チャック・パラニューク
前に午後のロードショーでこの作品の映画版がやっていたが、眠いからという理由で見なかった。そのときの後悔が喉に刺さった小骨の如く心の中に残っていたため、読むことにした。
そんなに面白くはなかったが、これが世に言うアレか〜と思った。アレが何なのかは読んで確かめてほしい。
読んだ漫画
デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション12 浅野いにお
二人の少女のディストピア青春譚、の最終巻。不条理さでいえば「ペスト」に通ずるものがあるが、こちらの方は風刺的な描写が多い。
同作者の「おやすみプンプン」とかでも思ったが、浅野いにおは皆が期待する素直な終わり方に絶対にしないんやな......。
納得するのに時間がかかったが、今ではこの終わり方もアリな気がしている。
さよなら絵梨 藤本タツキ
めちゃくちゃ月並みなことを書くが、藤本タツキは漫画がめちゃくちゃ上手いと思う。絵が上手いとかではなく(絵も上手いが)。
他の人が物語が崩壊するのを恐れて絶対にやらない表現をぶち込みまくって、かつそれが表現として確立されているのは素直に憧れる。
オチがものすごく爽やかだなと思っているが、今のところ誰ともこの感覚を共有できていない。
以上。
めちゃ長い文章になってすみませんね。私は色々思い出せたので満足しています。
ではまた4ヶ月後に長文したためてお待ちしております。
書いたひと:榊原