名古屋大学読書サークル

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作家紹介:松村涼哉

こんにちは、イシです。今回は僕の好きな作家、松村涼哉さんの紹介をしたいと思います。少しでも魅力が伝わればいいなと思っています。全作紹介してもいいのですが、今回は特に僕が好きな作品をセレクトしてお届けします。

作者紹介

松村さんは静岡県浜松市出身の作家さんで、「ただ、それだけでよかったんです」で電撃文庫からデビューし、「十五歳のテロリスト」以降はメディアワークス文庫から出版されています。主人公は基本的に中高生で、そこに取り巻く社会問題を題材に書き上げられた作品が多いです。社会問題というと重苦しいイメージがありますが、そこでミステリーと融合することで、読みやすいテイスティングにされています。ページ数も200ページ程度のものが多く、何度も一気読みさせられている作家さんです。個人的なイメージですが社会問題への興味を持つきっかけとして最適なんじゃないかなと思っています。

十五歳のテロリスト

この作品は彼の代表作といえるのではないでしょうか。少年法を主題にしたミステリーで、だんだん点と点がつながって、全体像が見えていくのがページをめくる手を止めない一方で、十五歳以下の少年により大切な人を殺された遺族の気持ちはどうすればいいのかについて踏み込まれています。

少年法により十五歳に満たない犯罪者は罪に問えず、また実名報道もされない。反対に被害者の方は実名で報道される。この制度によってやるせない気持ちを抱えた被害者少年と記者。無念を晴らすためにどうすればよいのか問いかける1作です。

 

ただ、それだけでよかったんです

この作品は彼のデビュー作です。中学校のあるクラスを舞台としたいじめとスクールカーストを主題にした1作です。語ってしまうとネタバレになってしまうのであまりいえませんが、今の常識は数十ページ後には裏切られているといった感覚の続く作品です。表面上に見えていることだけが真実ではない。本当の悪は誰(何)なのか。そんな問いかけのある1作です。

監獄に生きる君たちへ

この小説はミステリー×児童相談所問題の作品になります。この作品は「私を殺した犯人を暴け」という手紙が事故死したはずの女性から届くところから始まります。同じ手紙を受け取った高校生たちが過去に彼女に旅行で連れられてきて、監禁されて・・・。その監禁を解くためにそれぞれが自分の過去と、事件当日の話を独白する展開で話が進みます。それぞれの背後にある問題と、転々とする犯人像。彼女の企画した旅行の真の目的とは。児相の抱える問題を少年少女の視点で捉えたミステリーです。

犯人は僕だけが知っている

ミステリー×排除型社会の作品です。排除型社会とは簡単に言うと、「私は正しい。私の考えにそぐわないあいつの考えは間違っている」という感じに自分と相手の間に線を引き相手を遠ざける社会状態です。ジョック・ヤングの「排除型社会」を参照にしていて問題への導入本としていい本だと思います。この作品では噂がターゲットになっています。証拠もない「私はこう聞いたんだから」、「私が見たこの光景はこの事件にこうしてつながっているに違いない」という言葉。それを「そんなこと言って、全然事件が見えていないな」と遠目で嘲う輩。きっとこの空気感に嫌気がさして客観的に物事を見るようになるはずです。

この作品では他の社会問題も取り上げていますが、それは読んでからのお楽しみということで。

暗闇の非行少年たち

この作品はミステリー×非行少年です。まあ、タイトル通りと言えばタイトル通りですね。過去に家庭の事情だったり、自分の境遇だったりで事件を起こして少年院に入り、退院した少年少女。退院したものの前を向けずにまた闇の方へ向かおうとする彼女たちはふとしたことでVR空間で会うことになる。VR空間の中で少しずつ更生していく彼女たち。そして、悪の生活に戻そうとする現実世界の人間関係。葛藤を抱えながらも少しずつ自分の意志を持っていき生きようとする姿に、ポジティブさを感じられる1作です。

また、この作品は名古屋が舞台となっていて、市内の地名もいろいろと出てきていたので、光景が想像しやすくてリアリティが高かったです。

エピローグ

全作品ではないですが、何冊か紹介させてもらいました。難しい話題を扱っているのですが、ミステリー調で読み手を飽きさせない文章術を武器に書かれていて、おすすめの作家さんです。最近では、毎年12月25日に新刊が発売されています。粋なクリスマスプレゼントです。あと1週間、楽しみですね。