名古屋大学読書サークル

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「変身」の「毒虫」とはなんだったのか?

こんにちは、恵です。最近当番さんが執筆パス続きなので、代打で書こうと思います。

 

今回は、カフカが書いた「変身」をとりあげようと思います。

なお、思い切りネタバレしているので、読んでない人は注意してください。

 

 

 

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岩波文庫版を読んで記事を書いています。)

「変身」あらすじ

ある朝、青年グレゴールが自室のベッドの上でいつの間にか毒虫に変身していた。物語が進むにつれて彼は同居の家族から悲しまれ、哀れまれ、やがて憎まれていき・・・

 

 

さて、この本を読んで私が気になったのは、

 

「毒虫」って結局なんだったの?

 

です。

 

ということで、「毒虫」とは一体何だったのか、考察をしてみたいと思います。

(この記事は完全に私の思いつきであり、根拠は特にない感想文のようなものです、あしからず。)

 

ところで、カフカは執筆当時から表紙に「毒虫」のイラストを描くことを固く禁止しており、このことから作者は毒虫を一つのイメージとして固定することを避けていたそうです。

 

外見的特徴は本文には断片的に描かれており、まとめると↓のような感じでした。 

・腹に節がある

・足が複数ある(数は不明)

・背中が硬くて湾曲がある

・仰向けに寝ると自力で起き上がるのに苦労する

・狭い部屋で向きを変えるのに手間がかかる

・大きな複眼がある

・怪我をすると体から緑色の液体が出る

・巨大である

 

一応辞書でも調べてみました。

 

どくむし【毒虫 venomous insect】

人体に直接または間接的に害のある,危険な昆虫やクモ・ムカデ類その他小動物の総称。その害は種類によって軽微のものから激しいものまである。毒はないが毒虫に似ているものも恐れられることが多い。(世界百科事典第2版)

 

・・・② 転じて、人に害を与えるもの。また、いやがられ、きらわれるもののたとえにいう。(精選版 日本国語大辞典

 

 

以上の特徴から、人々が毒虫に対して抱くイメージは下記のようになると思われます。 

 

1,負の利益しかもたらさないもの→役に立たないもの

2,忌み嫌われるもの

3,通常の動物よりも強いもの→畏怖されるもの

 

ではそれぞれのイメージに基づいてグレゴールと家族の関係を考えてみます。

 

1, 負の利益しかもたらさないもの→役に立たないもの

グレゴールは毒虫に変身したことによって、自分の部屋から外に出ることができなくなり、実質引きこもり生活を余儀なくされます。変身以前のグレゴールは家族の生活を支える一家の大黒柱であり、働き方は尋常ではなかったようです。2章の彼の回想によると、人間だった頃の働き方はほとんど過労死レベルのものであり、実際に彼は多少のうつ病を患っていた表現も見られます。彼は変身によって、家庭の役に立つものから役に立たないものへと変身してしまったということを「毒虫」であらわしたのでしょうか。

 

 

2, 忌み嫌われるもの

毒虫は害虫として大抵は忌み嫌われますよね。でも、変身した当初のグレゴールは家族にショックを与える存在ではありつつも、完全に嫌われていたわけではないです。(最初は驚かれただけで、ちゃんと看護してもらってます。)彼が完全に嫌われたのは、3章でグレゴール家の下宿人の前に姿を現すという失態を犯してからです。ここで嫌われたのは、彼が毒虫の姿を見せたことで一家の資金源であった下宿人から慰謝料を請求されるという、一家にとって損となることをしたのが原因です。 ここでも毒虫=負の利益をもたらすという概念の上で嫌われるという結果を生み出しています、

ということで2は1の結果起きたかもしれません。

 

 

3,通常の動物よりも強いもの→畏怖されるもの

毒虫は、恐れられるものです。

しかし、主人公グレゴールは強い人間というよりかは家族思いで、悪く言うと家族の言いなりの強さとは真逆のイメージを持つ青年ですね。

なぜ彼と畏怖される動物が結びつくのか。 

 

グレゴールは家族のために休む間もなく働き続け、常に莫大なストレスを背負っています。ある日目覚めたときに体が毒虫に変身してベッドから起き上がれなくなったことは、これを、彼の肉体と精神が限界に達し、重度のうつ病を患ったことの比喩表現と捉えてみましょう。では、このときなぜ彼は毒虫へと変化したのでしょう。

 

それは彼の内なる欲望が表面に現れたからです。

 

彼は家族のために身を削って重労働をこなしてきた一家の大黒柱的存在という意識を持ち、彼は無意識的に家族から感謝され、尊敬されることを望んでいたのです。

 

「こんなにがんばっているから、もっと自分を敬ってほしい、畏怖してほしい」

 

普段は理性の抑制力によって無意識下に押しとどめられてきた欲望が、精神疲労の末についに無意識の防波堤を越えて意識上に溢れてきたのではないでしょうか。

 

1章では彼が理性的思考をもち、家族をいたわる描写が随所で見られるのに対して、3章では本物の虫のごとく理性を失い家族を自らの毒によって怖がらせ、彼らを服従させようとしています。これは、グレゴールが家族に対して

「自分をもっと認めろ、強者である自分を敬え」

という訴えの強まり、もはや理性の抑制では歯止めが行かなくなってしまったことを示しているのではないでしょうか。しかし、家族は「毒」を露骨に見せはじめたグレゴールのことをどんどん嫌いはじめ、排除の意志を固めてしまいます。いつも縁の下でがんばっているけど家庭内で空気なお父さんが、ワーカホリックになって家族に「俺を敬え!」といったら総スカンをくらったかんじでしょうか。 

 

 

この場合、畏怖させようとしたらうっかり役立たず(1)になって、その結果2になった感じですね。

 

 

以上、とってもとっ散らかった考察です。文章量からわかるように、私は3の説を推しています。

 

みなさんは、「毒虫」は何だと思いますか?

 

色々想像すると楽しいですね。

それでは、閲覧ありがとうございました!!

 

文章:恵