名古屋大学読書サークル

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村上春樹の小説には「やれやれ」が???回出現する

皆さんこんにちは。

突然ですが、村上春樹という作家がいますね。

 

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彼は日本人作家としては海外で極めて成功し、毎年ノーベル文学賞を獲る獲らないで一部の人間に一喜一憂されていることは周知の事実でしょう。

 

しかし熱狂的なファン(所謂ハルキスト)がいる一方で、村上春樹って何が面白いのかよくわかんないよね〜同じ村上なら龍だろ」と限りなく透明に近く思う人が多いのも事実。(僕もそう)

村上春樹がこう思われてしまう原因はいくつか考えられます。

 

・物語の本筋にほとんど関係のないうんちく

・多様な解釈が可能な結末部のせいでカタルシスが得られにくい

・暗喩が超多い

・平易な口語文のはずなのに特徴のある会話

 

まあこれらは逆にいえば村上春樹の作風なわけで、好きな人からしたらそこが面白いんだが?となるでしょう。

 

またここで挙げた特徴は、手軽に村上春樹感を醸し出せることから半ばネタのように扱われています。

 

もしも村上春樹が『算数の問題』や『カップ焼きそばの説明』を書いたら→文体の絶妙なウザさが笑えると好評 - Togetter

 

村上春樹の小説を好きでも嫌いでもない身としてはなかなか面白いですが、村上作品をここ5年くらい読んでないので本当にこんなこと言うのかよくわからないです。言うとしたら作中でどれくらい言うんでしょうか?これってトリビアになりませんかね?

 

つまりこちらのトリビアの種、言い換えるとこうなります。

 

村上春樹作「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」において「やれやれ」は???回出現する

 

 

解説

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」は1985年に刊行された、村上春樹初の書き下ろし長編小説である。

 

 

今回、2010に刊行された文庫新装版上巻と、1988年に刊行された文庫版下巻を読み、「やれやれ」の出現した回数を記録した。ちなみに1回目の計測の時ページ数を記録するのを忘れていたため、一回読み直している。やれやれ。(マジで大変でした)

 

 

計測開始

1回目(上巻 p.62)

「(前略)今の段階では脳をとりだした方がより明確な記憶の収集ができるですよ」

「やれやれ」と私は言った。

 

2回目(上巻 p.140)

やれやれ、と私は思った。いったいなんだってあの老人は私が頭骨をもらって喜ぶなんて思いついたのだろう?

 

3回目(上巻 p.163)

私は一角獣の頭骨を手に入れた。

やれやれ、と私は思った。

 

4回目(上巻 p.167)

「やれやれ」と彼女は言った。「あなたの家に行く道順を教えていただけるかしら?」

 

5回目(上巻 p.254)

「やれやれ」と言って私は時計を見た。「とにかく君はそこを出た方がいいな。(後略)」

 

6回目(上巻 p.289)

「やれやれ」と言って私は冷蔵庫から缶ビールを出して飲んだ。

 

7回目(上巻 p.417)

「やれやれ」と私は言ってため息をついた。「何がどうなってもいいから、このまま帰りたくなったよ」

 

8回目(上巻 p.427)

(発信器無しでやみくろから逃げる方法を聞いて)「やれやれ」と私は力なく言った。

 

 

ここで上巻は終わった。

 

 

9回目(下巻 p.31)

やれやれ、なんだって私は彼女とベッドに入ったときにうまく勃起することができなかったのだろう、と私はまた思った。

 

 

下巻を読み始めて気づいたが、1988年版と2010年版は文字の大きさや行間の広さが全く異なる。つまり、新装版と原版でページがズレるのだ。

 

追試験をする人が大変だと思ったが、同時にそんな酔狂な奴はいないとも思ったため計測を続行した。

 

 

10回目(下巻 p.35)

「やれやれ」と私は言った。「これが君の言っていた大変なことなのかい?」

 

11回目(下巻 p.70)

「やれやれ」と私は言って平らな岩の上に身を横たえ、何度か深呼吸をした。

 

12回目(下巻 p.84)

「とすると僕の頭の中にも電極が埋め込まれていることになりますね?」

「もちろん」

「やれやれ」と私は言った。

 

13回目(下巻 p.101)

「(前略)私としてはなんとかあんたを助けてあげたかったのだが。」

「やれやれ」と私は言った。

 

14回目(下巻 p.107)

「(前略)いずれにしても彼らの失うものは何もないのです」

「やれやれ」と私は言った。

 

15回目(下巻 p.109)

「(前略)車輪はどんどん回転を速めており、誰にもそれを停めることはできんのです」

「やれやれ」と私は言った。

 

 

この辺は怒涛の「やれやれ」ラッシュで、ページをめくるたびに「やれやれ」言っている。読みながら全私が熱狂していた。

 

 

16回目(下巻 p.122)

「やれやれ」と私は言った。「本当に何も打つ手はないのですか?(後略)」

 

17回目(下巻 p.220)

「やれやれ」と言って影はベッドの上で身を起し、壁にもたれかかった。

 

18回目(下巻 p.231)

ふと腕時計を見ると、時刻はもう一時二十五分だった。乾燥機はとっくの昔に停まっている。

「やれやれ」と私は言った。

 

 

そして全てのページをめくり終わった。

 

 

 

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こうしてこの世界にまた一つ新たなトリビアが生まれた

 

 

 

 

村上春樹作「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」において「やれやれ」は18回出現する

 

 

 

 

村上構文に偽りなし、本当に沢山出てくることがわかって私は嬉しいです。同時にこんなことに土日を費やした私が悲しいです。

 

ちなみに「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」の内容は村上春樹にしてはかなりわかりやすいので、村上春樹最初の一冊におすすめです。

 

 

文:榊原

本:世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド

画像:Wikipedia, NASA