名古屋大学読書サークル

サークルメンバーがゆるりと記事を書くスペースです

読んでつくって、二度おいしい

今回は「読んでつくって、二度おいしい」と題して村上春樹さんの作品に登場する料理を実際につくって、食べてみたいと思います。というのも、古本屋で手に入れた「村上レシピ」という本が手元にあり、さらに実食してみたい料理があるためです。「村上レシピ」は眺めるだけでも楽しいですが、実際の作り方も載っており、読んで食べて二度楽しめる本です。村上さんの作品についても新たな発見があるかも?と少し期待して、早速つくっていきます。

 

様々な料理のレシピがあるなかで、今回はノルウェイの森(上)で小林緑が同じ大学に通うワタナベに振舞う「おばんざい」のうち

ぼってりとしただしまき玉子 と しめじ御飯 を実際につくります。

 

ノルウェイの森(上)  文庫本 p.126

緑の料理は僕の想像を遥かに超えて立派なものだった。鰺の酢のものに、ぼってりとしただしまき玉子、自分で作ったさわらの西京漬、なすの煮もの、じゅんさいの吸物、しめじの御飯、それにたくあんを細かくきざんで胡麻をまぶしたものがたっぷりとついていた。味つけはまったくの関西風の薄味だった。 

 

この場面では、ワタナベ君が同じ大学に通う小林緑の実家を訪れ、緑がワタナベ君のために、おばんざいを振舞います。この場面で二人の関係に大きな変化が見られたり話が急展開したりするわけではないのですが、とても好きな場面です。緑が台所で一心不乱に料理をしている姿はまるでインドの打楽器奏者のようだ、とあり複数の料理を同時進行で無駄なく俊敏に作れる人、それも誰かのためを思って喜んでもらいたい、というよりかは一つ一つのやるべき作業を滞りなくこなし目の前の仕事に魂を注ぎ続ける職人のような姿に、読んでいて惚れ惚れします。

緑が実際に作ったのは正統的な関西風の料理。鰺の酢のものに、ぼってりとしただしまき玉子、自分で作ったさわらの西京漬、なすの煮もの、じゅんさいの吸物、しめじの御飯がテーブルに並びます。今回は「ぼってりとしただしまき玉子」と「しめじの御飯」を作ります。(その他は事情により見送り)

 

○ぼってりとしただしまき玉子

ボウルに卵を入れときほぐし調味料を加え卵汁をフライパン(理想は玉子焼き器)に流し込み、クルクルと巻く。作中では緑が玉子焼き器を手に入れるまでの苦労や思い入れについて綴られています。生活に必要なものを我慢しお小遣をためてやっと手に入れた玉子焼き器。あるもので間に合わせてしまう私には緑の料理にそそぐ熱量がまぶしくもあり羨ましくもあります。

 

○しめじの御飯

炊飯器にしめじ2パックと調味料を加え、さらに5cm角の昆布を一枚入れスイッチオン。昆布がポイントらしく仕上がりにどう影響するのか楽しみ。

 

完成!

 

「ぼってりとしただしまき玉子」は驚くほどおいしくできました。実際に作ったことで、この玉子焼きは普通の甘い玉子焼きではなく、ぼってりとするほど水分量の多い玉子焼きだということに気付きました。卵液をフライパンに流し込みしばらく観察していたのですが、なかなか固まらず液体のまま。このまま巻くタイミングを逃して焦がしてしまうのでは、という不安と、焦って巻いたらせっかく固まった部分が崩壊しかねないという冷静な目をもち、フライ返しと菜箸を両手に丁寧に作ったのが今回のだしまき玉子です。だし汁のジューシーさを残しつつ厚焼きの玉子焼きを作ることができたので満足な結果となりました。

 

「しめじの御飯」は醤油や塩などの調味料により、しめじの風味が際立つような優しい味でした。また、レシピに載っていた「気持ち程度の昆布」を入れてお米を炊きました。昆布の旨味と塩気によりお米がおいしくなるとのことですが、昆布の存在を感じさせるほど主張はせず、しめじの風味を微力ながら後押ししてくれました。

さわらの西京漬や鯵の酢のものなど、作中で登場する他の料理とも合うんだろうな... と

想像が広がりました。

 

今回は作品に登場する二つの料理をつくることで、緑がワタナベ君に振舞った

おばんざいを立体的に味わうという楽しさを知ることができました。

「ぼってりとしただしまき玉子」は読んでもおいしい言葉ですが実際につくっても、

やっぱりおいしい...。また、緑の料理を作るということで登場人物としての緑に注目して作品を読み返すと、作品の内包する静寂さだけが魅力ではなく、緑のもつ明るい生命力もまた、ノルウェイの森という作品の魅力なのかもしれないなと感じました。

 

みなさんも「読んでつくって、二度おいしい」読書体験をしてみませんか?

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

 

書いた人:ハナ