ひとことレポート「超短編! 大どんでん返し」
超短編! 大どんでん返し
編者:小学館文庫編集部
ジャンル:短編小説集
おすすめ度★★★★☆
サクサク読める度★★★★★
読み始めたきっかけ:タイトルに惹かれて
ひとこと:タイトル通り、「どんでん返し」がお題の短編小説集。各話文庫本にして約4ページと短編にしても破格の短さであるにもかかわらず、どの話も最後の最後に思わず「やられた!」とうなるオチがついていて、読んでいて非常に爽快感がありました。王道の密室ものからSF、おとぎ話を下敷きにしたものまで、とにかくジャンルが多彩であることも魅力的。何より作家さんがめちゃめちゃに豪華で、考えなしに取ったバイキングの一皿目のよう。形式はそのままに、ラブストーリーという更なる縛りが加わった第二弾もあるようなので、そちらもぜひ読んでみたいです。
筆者:黒谷
ひとことレポート「サンタクロースと小人たち」
サンタクロースと小人たち
著者:マウリ・クンナス 訳:稲垣美晴
ジャンル:絵本
おすすめ度★★★★★
疲れた日に読みたい度★★★★☆
読み始めたきっかけ:家にあったため
ひとこと:フィンランドの山奥で一年かけてクリスマスプレゼントを作るサンタと小人の話。いかにも海外の絵本という感じのファンタジックでかわいらしい絵柄ながら、一晩ソリの上で寒さに痛めつけられる身体を思い事前にリウマチの薬を塗ってもらう年齢相応のサンタの姿が描かれていたり、服は手やミシンで縫い合わせ、おもちゃはスプレー缶で塗装するなど、プレゼント作りの行程や道具が結構身近なものだったりと、意外に現実的な描写が散見され、なんとなく親近感が感じられます。いまこのときも遠い異国の地で汗水たらして働いているサンタと小人たちのことを思えばこそ、辛い毎日を乗り切ることができます。
筆者:黒谷
私の思い出に残っている本
皆さんは特に思い出に残っている本はありますか?
今回は私の思い出に残っている本「都会(まち)のトム&ソーヤ」について書こうと思います。
小学校の高学年の頃に、友達が読んでいたのを見つけたのがきっかけでした。その当時私は「ぼくらの」シリーズが好きで、小学校の図書館においてあるのは一通り読んでしまって次に読む本を探していたので、タイトルを見て面白そうと思いすぐに貸してもらいました。そこからハマったのですが、小学校の図書館には3巻までしか置いておらず、早く続きを読みたいと思いながら中学校に進学したところ、なんと中学校の図書館には最新巻まで置いてありました。思わず感動したことを覚えています。最終的には、図書館に最新巻が来るのが待てずに、自分で買って読むようになったほどです。
最も印象に残っているのは、主人公のうちの一人、内藤内人のサバイバルスキルです。”ふつうの”中学生と銘打っておきながらおばあちゃん(山を知り尽くしているとんでもない人)仕込みのサバイバルスキルを数多く持っており、数多くのピンチを切り抜けていく様は、当時の私にとってとてもワクワクするものでした。
他にも、冒頭で毎回何かしらのパロディをしていたり、竜王創也(もう一人の主人公)との掛け合いが面白かったりと、様々な魅力があります。
少しでも興味が湧いた方、良ければ読んでみてください!
書いた人:kato
通学のお供に古典文学を
皆さんは「ソラリ」というアプリをご存知でしょうか?
「ソラリ」は、著作権が消滅した、もしくは著作権者の許諾を得た作品のテキストを無料公開している電子図書館「青空文庫」内の書籍を読むことができるアプリです。
自分は授業で扱う作品が収録された教科書を忘れ、教授に悟られぬようせめて作品のテキストだけでもこっそり閲覧したい、という非常に不純な目的でインストールしたのですが、せっかくいれたのだからと使う内にいつの間にか大学生活に欠かせないアプリとなっていました。
今回はその魅力を、主に自分が使っている通学時の利用という側面から紹介します。
おすすめポイントその①:収録作品と選び方の多様さ
上でも触れたように、ソラリでは青空文庫に収録されている作品しか閲覧できません。著作権保護期間を終えたもの、と聞くとかなり限られているようにも感じますが、青空文庫には現段階で日本内外の作家による17,000を超える作品が収録されています。しかも、著作権が切れた作品は日々増え続け、それに従って青空文庫に収録されるテキストも増加し続けているため、作品をすべて読みつくしてしまう、という事態はまず起こりえないでしょう。
また、アプリ内の検索画面では作者名・作品名からそれぞれ作品を探せると共に、月及び年度単位のダウンロードランキングも閲覧することが出来ます。古典作品が集まっていることもあり、ランキングに入る作品の変動はほとんど無いように感じるのですが、月単位では順位の変動が発生することもあり、なぜそのように変化したのかを順位が変わった作品を実際に読んで考えてみる、という楽しみ方もできます。
さらに、各作品には五段階評価と一言コメントからなる有志の読者による評価も付されています。全ての作品に評価がされている訳ではなく、コメントがいくつもついているものから五段階評価すら一例もないものまでかなり幅はありますが、先人の感想を参考に全く知らない作品に挑戦したり、自分でも投稿して簡単な読書記録としたりするなど、様々に活用することが出来ます。
ソラリでは、こうした多彩な選択方法が提示されていることで、膨大な作品群の中から自分に合った作品を見つけることが出来るのです。
おすすめポイントその②:無料で読める
これはアプリというより提供元である青空文庫の魅力となってしまいますが、アプリのダウンロードから各作品の閲覧まで、基本的に一切お金を払わずに行うことが出来ます。
代わりにページを移動する時短い動画が流れたり、画面下に宣伝のバナーが表示されることがありますが、それらの出現は主に作品選択画面やその中での移動時に限られるため、広告によって読書が中断されるという事態は発生しにくくなっています。
また、それでも広告は嫌だ...という方向けに、250円と引き換えに広告を一切表示しなくなるという機能も搭載されています。
どちらを選ぶかは人によりけりだと思いますが、いずれにせよ社会人に比べ自由になるお金がどうしても限られてしまう我々学生にとって、お金をかけずに多くの名著に触れることを可能にする青空文庫は非常にありがたいサービスであるといえるのではないでしょうか。
おすすめポイントその③:オフラインでも読める
ソラリでは「作品の選択→作品ごとにダウンロード→テキストを表示」という閲覧の仕組みになっているため、通信環境の良い場所でダウンロードさえすれば、オフラインでも作品を読むことが可能です。よって、通信制限のかかる月末や、地下鉄の中など電波が不安定な場所でも安心して読書に集中することができます。
おすすめポイントその④:アプリならではの便利な機能
ここまで読んで下さった方の中には、「今まで挙げたおすすめポイントは全部紙の本にも言えることなんじゃないか?」と疑問を持たれる方もいらっしゃるかと思います。確かに紙の本であれば電波状況の影響は全くなく、当然途中で広告動画が挟まることもありません。図書館から借りて来ることが出来れば、お金の問題も解決できます。
しかし、ソラリ独自の魅力は紙の本にはない便利機能にあります。
便利機能の一つとして、表示される一ページをカスタムできる点が挙げられます。一文字単位で調整できる折り返し字数や行間・余白の広さ設定でページ内の字数や大きさを自分好みに調整できるのはもちろん、文字や背景の色もかなり細かく指定することができます。さらに、通常時とは別のナイトモードも設定すれば、テキストのページからボタン一つで夜間の閲覧に適した色へと変更することができます。この機能を使えば、例えば通常時は早く読めるよう一ページの文字数を多めに、眠気で頭が回らない朝一の時間帯や疲れで目がかすむ帰宅時には通常時よりも派手な色かつ少ない字数で表示するなど、状況や自分の具合に応じてテキストを最適化することが可能となるのです。
次に便利なのがしおり機能です。ソラリでは、設定ページでしおりを挟むタイミングを手動と自動のどちらかに設定することが出来ます。手動でもテキストページ上のボタンを押すだけなのでそれほど面倒ではありませんが、自動に設定しておくと、いかなる形で画面を終了しても、次にテキストページを開いた時には勝手に画面を閉じた時のページが表示されます。例えば内容に集中しすぎて降車駅のアナウンスにぎりぎりで気が付いた時など、紙の本では慌ててそのまま閉じてしまい、次に読み出す際に困ってしまう、という事態が起こりがちですが、しおりの自動機能を使えばいくら慌てて画面を閉じたり別の画面に移ったりしても、次に開いた時には必ず続きから読み進めることができるのです。
このような便利機能を活用できると共に、片手で気軽に操作ができるため、読みやすく持とうと思うとどうしても両手がふさがってしまう紙の本と比較して、混雑した駅や車内でも扱いやすいという点が、通学のお供としてのソラリの魅力だと考えています。
以上、通学時の読書ツールとしてのアプリ「ソラリ」の魅力について紹介しました。以前の記事でも取り上げている方がいらっしゃいましたが、騒音や混雑などの多少の困難はあれど、できることが限られる電車の中は、不思議と読書に集中しやすい空間であるように感じます。実際に自分は通学の電車内で時間を見つけてソラリを開き、飽きたらしおりを入れて次の時間に回す、というのを繰り返すことで、以前難しさと長さから挫折した作品を最後まで読み切ることができました。
夏休み期間ということで、公共交通機関を利用した旅行に出かけられる方も多いと思われますが、その中で発生する長い移動時間の退屈解消に、そして新学期の通学時間のお供に、ぜひソラリを活用してみてはいかがでしょうか。
黒谷
猪高緑地に行ってきた
どうも、ようやく院試から開放された大木です。
一ヶ月ほど続いた自宅と研究室と図書館を行き来するだけの毎日も終りを迎え、非常に開放的な気分で日々を過ごしています。(これから始まる研究生活に目を背けながら)
抑圧された日々が終わると、その反動で今まで摂取してこなかった成分が欲しくなることってあると思います。例えば、急にボクシングジムに通いたくなったり、普段は引きこもりインドア派の人が外出したくてたまらなくなったり、などなど。その一環として僕の中の緑に囲まれた場所に行きたい欲が爆発しました。
ここからは、猪高緑地に行ったリポーターに成り切っていこうと思います。なお、ブログのネタにするつもりはなかったため、写真がありませんが、ご了承ください。
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え〜、では猪高緑地へと出発しようと思います。シュワッ。(名古屋駅でジャンプする)
スタッ。ということで、猪高緑地へと到着しました。ここ、猪高緑地は名古屋市名東区に位置しています。
見てください。名古屋とは思えないほどの広大で豊かな緑に囲まれています。総面積はなんと66.2haにも及びます。これだけの広く自然豊かな地が名古屋市にあるなんて、驚きです。
公園に足を踏み入れると、都会の喧騒からは切り離され、セミや鳥の鳴き声が響き渡ります。大小様々な池や竹林、ナラの原生林などが見られ、見たことのないほど大きなトンボや蛾、更にはカブトムシに出会えます。
駐車場から散策コースを歩き始めると塚ノ杁池という大きな池が見えてきます。池の周りを歩いていると、カブトムシを育成しているスポットが見られ、虫取り網を持った子供が大はしゃぎすることでしょう。虫取り網を持っていない大学生でもテンションが上がったので間違いありません。
塚ノ杁池を抜けてしばらくすると、竹林が見えてきます。360度が竹で覆われていて、別の世界にやってきたように思えます。まるで竹が避けた結果作られたような散策道をネコバスになった気持ちで歩いていると(つい先日にトトロが放送されて影響です)、人間的な部分が浄化されていくように感じます。
......
、、、、、、
。。。。。。。。。
やめます。
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え〜、猪高緑地には見どころがまだまだ見どころがあります。しかし、僕の拙い文章ではとてもその魅力を伝えらず、何よりも写真が無いのが見るに耐えないので、茶番はこのあたりで終わりにしたいと思います。気になる方は是非、猪高緑地について書かれた他の素晴らしいブログや、現地を訪れてみてください。
書いた人:大木
今年読んだ本など 【5月から8月まで 編】
〜前回〜
皆さんいかがお過ごしだろうか。
一年生も大学生活に慣れて、というか宿題の概念がない夏休みに慣れて、弛緩し切ったダルダル大学生へと変貌を遂げたころではなかろうか。そんなお前、お前は終わりだ。そうでない人は、そのまま頑張ると良いことがある場合とない場合があるぞ。
という訳で備忘録、続きます。
・: 読書会でやった本
☆: その月一番良かった本
★: 次点
無印: 特に言及がない場合、ふつう
書評と言うには中身がなさすぎる感想(独り言)付き。
もくじ
【5月】
GWはシュルレアリスム強化週間にしようと思い立ち、シュルレアリスム運動周辺の作家をピックアップして読んだ。
★人間そっくり 安部公房
自称火星人のセールスマンが家に上がり込む。その主張は二転三転するも不思議と筋が通っており、翻弄される主人公は次第に自分が何者なのかわからなくなっていくーー。という内容。
小説の殆どが主人公と自称火星人の会話劇で占められており、静かながら非常にスリリングに物語は進行する。自称火星人の言動から彼の心理を全く読み取れず、怖い。
文体練習 レーモン・クノー
クノーは後述するブルトンと親交があったが、すぐに絶交したため、シュルレアリストではない。しかし、実験文学作家ではあった。
そんなクノーの代表作がこの文体練習である。「1日に同じ男を二度見かけた」というだけの内容を99の文体で執拗に繰り返すだけなのだが、あまりにも無理がある文体が頻発しており面白かった。
ちなみにフランス語学習者の教科書の定番らしいが、これを訳して本当に勉強になるのだろうか。なるんだろうな。
シュルレアリスム宣言・溶ける魚 アンドレ・ブルトン
ブルトンこそがシュルレアリスム運動の発起人である。シュルレアリスムという言葉自体はブルトン以前にアポリネールという前衛詩人が造ったものの、現在一般的に言うシュルレアリスムはブルトンが提唱したものである。多分。
「シュルレアリスム宣言」は引用で喋るタイプのオタクの文であり、開始数ページでドストエフスキーをディスっており爆笑してしまった。なんかコイツは嫌な奴なのではないか?と思ったが、その後の短編集「溶ける魚」はとても美しい夢のような文章だったので彼は多分良い人だと思う。と思ったけど、シュルレアリスム創始メンバーのほぼ全員が彼の元から離れたらしいので、本当に嫌な奴っぽい。
また、自動筆記(シュルレアリスム特有の技法)は確かに文章としては面白いが、それはその時点で自分の中に存在するものの組み合わせでしかないため、同時期に何作も書くために使う技法ではないなとも思った。更に言えば、文章にする時点でいくらかは理性の制御下にあるわけだから、真の超現実への到達は困難ではないかと思ったが、まあそんな批判は今までにいくらでもあるんだろうな。
熱帯 森見登美彦
同作者の「夜行」と少し似ている。特に伏線を回収することなくぼんやり終わった「夜行」と比較してちゃんと伏線を回収してるし、多重入れ子構造なのも面白い。......はずなのだが、不思議と盛り上がりに欠ける。
内容は作中で言及される千一夜物語の他に、(元々そうではあるが)ボルヘスなどのマジックリアリズムの影響が強い。
☆ジョン・レノン対火星人 高橋源一郎
「偉大なるポルノグラファー」である「私」の元に、ある日突然「花キャベツカントリイ殺人事件」の首謀者「素晴らしい日本の戦争」から手紙が届く。彼は頭の中に死体が住み着いているというのだ。そして「私」は「素晴らしい日本の戦争」の治療を始める......。というシンプル(?)な話なのだが、固有名詞や表現が変化球すぎてなんのことやらわからない。しかし名作だと思う。どうしようもない暴力性・衝動性が、奇跡のような迫力を生み出している。気がする。
ちなみに作中でジョンレノンと火星人が出現することはない。
華氏451度 レイ・ブラッドベリ
本が禁止された世の中の話。ただの読書礼賛になっていないのが良い。
言わずと知れたディストピア文学の名作なのだが、主人公の上司ベイティーがこの作品の魅力の7割を占めていると思う。ベイティー最高。ベイティーだけでご飯3杯いける(???)
今回読んだのは新版なのだが、Firemanを昇火士と訳すセンスが良いなと思った。(ちなみに他の版は焚書官と訳してあるらしい。全然印象が異なる)
見た映画
ショーシャンクの空に フランク・ダラボン
脚本と演出が巧い。映画の人気投票か何かで一位に選ばれたらしい。確かに良い映画だが、上位に食い込むにしろ、一位に選ばれるほど良い映画ではないだろとは思う。しかし、じゃあ何が一位かと訊かれると困るので、ショーシャンクの空にが一位でいい気がしてきた。
行ったライブ
Thundercat
Thundercatはバカテクベーシストで、グラミー賞を取るなど非常に高明な人物なのだが、格好がどう見ても浮浪者にしか見えない。「全身グッチで固めて浮浪者に見える唯一の人物」というYouTubeのコメントがあるくらいである。
で、ライブ当日はどうだったかというと、赤い任天堂のTシャツに、エヴァンゲリオンのアスカがプリントされた真っ赤な6弦ベースを持っていた。やばいオタク......!
【6月】
インターンのES書かないとな〜と思いながら読んだ。ESを書け。
☆天人五衰 三島由紀夫
ようやく豊饒の海を読み終わりました。長かった......。
良くも悪くも三島の手癖が爆発しており、登場人物が己の役割をシステマティックに果たし衝撃の結末を迎える。かなり賛否両論別れると思うが、私はめちゃくちゃ好き。みんなで終わりを見届けよう。そのために全4巻読もう。
★ジョゼと虎と魚たち 田辺聖子
文章がとても好みだな、と思った。が、普段小説で文章を気にいることがほとんどないので、何が気に入ったのかはよくわからない。お気に入りの文章、沢山見つけたいね。
映画化もされているのでてっきり長編だと思っていたのだが、短編集だった。働く女性とその周りの男、みたいな同じような舞台設定の短編が主であった。面白いが、大体同じなので胃もたれしないと言ったら嘘になる。そしてぐったりしつつある後半に毛色の違う表題作(とても良い)が挿入されることで、なんか全体的にいい物を読んだ気分になった。
他人の顔 安部公房
安部公房の失踪三部作の一つ。実験中の事故で顔を無くした研究員が、作り物の顔を新しく作る話。そしてその顔によって引き出された自分の隠された心理に振り回されていく......という内容。全編が主人公の手記という、やや特殊な形態。
私たちも服装が変わると振る舞いが変わったりするが、そのどれが本当の自分なのだろう。どれも本当の自分と言ってしまうのは簡単だが、そもそも本当の自分なんてものは存在するのだろうか?
読んだ漫画
わたしの人形は良い人形 山岸凉子
たまには少女漫画でも。
私は男だが、赤髪の白雪姫とか、ダークグリーンとか、少女漫画もそれなりに好きなのだ。というか女性が少年漫画読む時代なんだから、男性も積極的に少女漫画を読むべきなのではないか、私はそう思う。いや、全然そうは思わないね。好きにしたらいいんじゃないかな。
表題作は市松人形を巡るホラー漫画。サイキック美少年が念力的なサムシングを使っており困惑したが、まあホラー漫画ってなんでもありだからな。
永沢君 さくらももこ
ちびまる子ちゃんのサブキャラの中でも家が燃えることに定評がある永沢君の中学時代を描いた漫画。なのでとことん卑屈で嫌味な内容になっているが、中学生なんてそんなもんだったような気がしないでもない。わからない。断言するには歳を取りすぎた。
欄外やおまけページがとにかくナンセンスで、さくらももこがサブカルの女王だったのを思い出した。
宝石の国 市川春子
人間ではなければ幾らでも破壊描写をしていいという業界の不文律でもあるのだろうかと思うくらいに主人公がろくな目に遭わないのだが、解脱のためには致し方ないね。そう、かわいい宝石の擬人化漫画だと思ってたんだけど、アフタヌーン連載だったの忘れてた。めちゃくちゃアフタヌーンアフタヌーンしてるね......。
見た映画
スタア 内藤誠
筒井康隆の同名の戯曲を映画化したもの。サスペンス的な筋書きかと思いきやスラップスティック的な展開になり、オカルティックな地震学者の登場によりなんでもありの筒井流SFワールドに突入。最終的にドリフみたいになって終わる、めちゃくちゃな映画。
筒井康隆とその愉快な仲間たち(タモリ、山下洋輔、坂田明)が出演しているのも見どころ。
【7月】
流石に就活に本腰を入れ始めたので本を読む時間が激減した。こんな時期から活動し始めないと就職できない世の中、間違ってるよ......。
と思ったが、後半ストレスでプッツン(死語)してしまい結局いつも通り読んだ。
★沖縄文化論集
沖縄に行く用事ができたので読んだ。
旅先の歴史を学んでからまわるのとそうでないのとではやはり解像度が違うなと思った。皆さんも旅先の郷土資料を片手に観光してみては如何か。
☆N/A 年森瑛
芥川賞候補作品。
主人公は生理が嫌で食事をあまり取らず、「かけがえのない他人」が欲しくて同性と付き合う。それでいて拒食症やレズビアンというレッテルを貼られるのに不服な様子。だが客観的にみたらそう分類せざるを得ないし、カテゴライズされずに・せずに生きていくのは難しい。どうしたらいいんだろうか。
まだ一作しか作品がないので判断が難しいが、最近出たちくまのエッセイなどを見る限り、年森瑛は私の好きな作家になる気がする。
さようなら、ギャングたち 高橋源一郎
「ジョン・レノン対火星人」の衝撃が凄まじく、もう一冊読んだ。こちらはより感傷的でそれはそれで良い。
ペンギン村に陽は落ちて 高橋源一郎
3冊目。私は最早氏のファンなのではないだろうか。
ドラえもんやサザエさんといったお馴染みのアニメキャラクターによる最悪な話が展開されるのだが、これ、怒られなかったのだろうか? 怒られてくれ。
困った綾とり 佐江衆一
戯曲。なんか病気で参っちゃったお父さんをサイコドラマ療法で治すのだが、家族の誰も協力的でない。めちゃギスギスした家庭だね。
つまらないわけではないが、面白いわけでもない。
家庭の雰囲気に時代を感じる。それもそのはず、50年前の演劇だからだ。逆に今、同様のシチュエーションで演劇を書いたらどうなるのか考えてしまう。
読んだ漫画
チェンソーマン 藤本タツキ
流行り物を読んだ。これでみんなと共通の話題が一つ増えた。最近は話題に困ったらとりあえずチェンソーマンの話ししてる。
物語後半で展開される絵が良い意味で少年誌とは思えない。ファンシーなガロだろ。永井豪のデビルマンとかも当然意識しているのかな? なのにちゃんとエンタメとして成立してるのがすごい。こんなこと1000000回くらい言及されてそうだな。
ファミリーバーガーの回が一番好き。ファミリー!
見たアニメ
フリクリ 鶴巻和哉
全く流行り物でないものを見た。これでみんなと共通でない話題が一つ増えた。北米のナードの間では人気らしいので、北米のナードとは仲良くなれるかもしれない。
エヴァンゲリオンで有名なガイナックスが2000年くらいに出したOVAで、自社制作なのをいいことに好き勝手やっている。演出が本当にただやりたいからやってるだけで、マジでなんの意図もなさそう。好き勝手やりすぎでは? ただ作画と脚本がかなりしっかりしているので、全体としてはよくまとまっている。
【8月】
就活で生きる力を全て使い果たしてしまい、何もできなくなったのでたくさん本を読んだが、本を読む以外のことはほとんどできなかった。私はこの先生きていくことができるのか?
城 フランツ・カフカ
かねてより私には「未完の大作」というものに憧れがあった。夏目漱石の明暗とか、太宰治のグッドバイとかね。特にカフカの城は友人に薦められたので、読んだ。
「測量士として雇われた主人公が役所(城)や村の人々にたらい回しにされ続ける」というだけのことが600ページくらいグダグダ続く。そしてそのグダグダ具合が面白い。未完でも全然読める。だからみんなも未完小説を恐れずに読もう。
ねじまき鳥クロニクル 村上春樹
僕は村上春樹の小説が好きかもしれないし、あるいはそうではないかもしれない。だから彼の最高傑作との呼び声高い本作を読む必要があった。
この小説は確かに実験的で面白い。オーケー、それは認めよう。でも僕はやはり彼の思想とは根本から相容れない(それは僕が猫用の長靴を履けないのと同じようなものだ)し、だから彼の小説を読むのはこれで最後だと思う。僕はあくまで僕であって、猫ではないのだ。残念ながら。おそらく。
↑とか、それっぽい文を書こうとすると、村上春樹の比喩の巧さがより際立ちますね。
・☆おいしいごはんが食べられますように 高瀬隼子
芥川賞受賞で今最もナウい! タイトルが悪意に溢れている。もしくは切なる祈りかもしれない。
同僚の二谷くんと押尾さんが、仕事はできないけど愛されキャラの芦川さんにいじわるしちゃうぞ。
ポリコレが重要視される昨今、頑張れない人の陰でその分頑張れてしまう人がいるわけで。でも頑張れない人を切り捨てる訳にもいかず、みんなで守っていこうというこの風潮がねえ。自分が不利益被らない人間はなんとでも言えるしそれが正義だから良いよな〜〜!!!! ......と思ってしまいましたが、そもそも私が「頑張れる人」である保証などどこにもなく、だからといってニコニコ見守るのも気持ち悪いというか、私は私に正直でいたい。という点で押尾さんに共感していた。
二谷と押尾の視点が交互に描かれるのだが、「頑張れない人」である芦川さんの視点が欲しかったかも。でも、ないからこそ露悪的に描けるのかも、とも思う。
あとパートのおばさん特有のウザさの解像度が高すぎる。
★愛・地球博公式ハンディブック
懐かしいし100円で売ってたので買った。
死んでいいか? 私は愛知県民だったので、それはもう何度も愛知万博には行った。私の5歳の記憶は愛知万博によって100%占められていると言っても全く過言ではない。当時最先端の技術とかね、色々見た訳よ。もう記憶の奥底にこびりついてるんすよ。それが、こんな、ちゃちな、ハンディブック一冊に収まるはずが、収まってるね。。。
もう読んでると死にたくなってくるんすよ。私が17年前に抱いた夢や希望を、私は17年かけて完全にすり減らしてしまったんだなって。絶望ですよ。この先どういう気持ちで生きていけばいいの????
さらに言えばね、「地球市民村」とか、「千年共生村」とか、洒落臭い言葉が出てくる訳。私の知ってる万博にはそんな洒落臭い言葉は登場しないはずなんすよ。これ以上、美しい、私だけの思い出を汚す訳には行かないので、焼却処分した。嘘。
音楽 三島由紀夫
近親相姦や精神分析などなど、いかにも三島由紀夫が好きそうな題材だなあ、という印象。患者の不感症の原因を探るところまではミステリー感覚で面白く読めるものの、引っ張った割には結構あっさり解決してしまったのでやや残念に思う。
ちなみにこれで借りた本(コレと豊饒の海)が返せる。1年以上借りてたね。なげえよ。
移動 別役実
日本の演劇界には60-80年代にかけて小劇場ブームというのがあって、その第一世代の筆頭に早稲田小劇場という劇団があった。そこ出身の劇作家が別役実である。日本において不条理演劇を確立した凄い人らしい。同世代の唐十郎や寺山修司がウェットな作風であるのとは対照的に、かなりドライな作風(?)。
これも戯曲で、ある一家が家財道具一式を荷車に乗せて、無機質な電信柱が並ぶ道をただひたすらに移動する話。
家財道具や家族、自分自身を犠牲にしてでも前に進み続けなければならないというのは、厳しいがこれが現実だよなあと思う。現代を生きることは、消耗し続けることなんだよな、悲しいことに。なんか洒落臭い文章になってしまった。恥ずかしい。こんだけ書き散らしといて今更恥ずかしがることか、とも思う。
ウエー−新どれい狩り 安部公房
安部公房の初期戯曲「どれい狩り」の改作。どう見ても人間にしか見えない珍獣ウエーを飼うか飼わないかで一悶着するが、そもそもウエーが人間でなくウエーであること、人間がウエーでなく人間であることとは何なのか。ウェー。
基本的に「人間そっくり」と同じように、人間が人間であるという証明、人間とは何かというのが主要なテーマ。ただ、現代だったらゲノム全部読めば人間か人間でないか大体解析できてしまうよな、と思ってしまった。本当につまらない時代になったなと思う。あるいはゲノムが全く人間的でも、振る舞いが人間的でない場合を考えるべきか。
ちなみにウエーは劇中で「ウェー」とか「ウェッ」とか「ウェイ」とか鳴くので、インターネットミームにおける陽キャじゃん......と思ってしまった。ウェイウェイ。
読んだ漫画
あなたはブンちゃんの恋 宮崎夏次系
宮崎夏次系作品はただでさえぶっ飛んでるのに、長編は後半になるにつれて超展開すぎてついていけなくなりがちなのだが、今回は比較的上手くまとまってる気がする。過去作の中で一番読みやすいので、彼女の作品を読みたい人は最初に読むのにいいんじゃないだろうか。
秀吉が一番可愛い。暴走ニンニク豆腐さんが一番無気力。暴走ニンニク豆腐って、マジで何?
見た映画
ソナチネ 北野武
北野武の初期傑作映画。東京ヤクザが沖縄ヤクザの抗争に巻き込まれるぞ! 沢山人が死ぬ。
唐突に銃撃戦が始まって、直立不動で拳銃撃ち合ってるだけなのにめちゃくちゃ面白い。これは一体何なんだろう? 本当に唐突に人が死ぬので、全ての言動が死亡フラグに聞こえる。それが作品全体の緊張感の異常な高さに一役買ってるように思う。
とまあこんな感じです。
日本文学と海外文学を交互に読みたかったのですが、普通に日本文学ばっか読んでしまいました。うっかり。
さて次回は年末ですね。一年経つということで、年間ベストとかも同時に出そうかなあと思っています。気合いがあれば。
まあ、気合いなんて、私には、もうないんですけどね......。
書いたひと:榊原