名古屋大学読書サークル

サークルメンバーがゆるりと記事を書くスペースです

飼育される生き物たち

 

はじめまして。今回初めてブログを担当させていただきます、ハナと申します。

私は、月に一回オンラインでの読書会に参加している名大以外の学生です。雪国の生活も今年で3年目ということで、地元とは違う四季折々の変化を楽しむくらいには慣れてきました。残りの学生生活も楽しめたらいいなと思います。

 

今回は「生き物」、その中でも「飼育される生き物」をテーマにブログを書いていこうと思います。突然ですが、みなさんは日常生活の中で生き物と接する機会はありますか?学内の実習で関わったり自宅でペットを飼育していたり。接する機会はないけど散歩の途中で鳩を観察するとか。そういえば、雨の日はカタツムリが出現する「かたつむりロード」なる道が近所にあります。普段目にしない生き物が雨の日限定で現れると嬉しくなります。このように身の回りを見渡すと、思いのほか生き物との接点があるのではないでしょうか。

 

私の通う大学ではウシやヒツジなどをはじめとする家畜動物が飼育されています。「飼」という漢字の起源は「飼育」という言葉の「飼」を分解すると食を司るとなることから、食料とするための家畜動物を飼い育てるところにあるのでしょうか。または、狩りで獲物を仕留めるためのパートナーとして犬を飼うなど、食料獲得を支える手段としての飼育も起源としてあるのではないかなと思います。ただ、これは私が楽しく考えたものなので、正しい起源かどうかはわかりません。分からないのですが、「飼育」という言葉の起源には人が何かしらの形で「生き物」を消費する要素が含まれているのかなと思います。

 

現代では食べるため(家畜動物)、癒しを得るため(愛玩動物)、実験に用いるため(実験動物)など社会における役割は違えど人が何かしらの形で「生き物」を飼育し消費しています。消費というと人が一方的に生き物を飼い利用し、「生き物」の命を消耗していくような印象を受けます。私自身も動物が好きなのですが、 生き物が好き = 生き物を飼育したい! とならないのは、生き物の命を消費することの後ろめたさを感じてしまうからかもしれません。しかし、これまで出会った「飼育される生き物たち」を振り返ると、必ずしも人の一方的な目的のための飼育に限らないのでは と思う場面があります。例えば愛玩動物である犬を公園で見かけた時、楽しそうに飼い主さんと散歩している様子は見ているこちらまで幸せな気持ちになります。家畜動物であるウシも一頭一頭性格が異なり、毎日お世話をしている方を見かけると勢いよく駆け寄ってくるウシがいます。何かしらの目的をもって飼育される生き物たちですが、生き物たち自身も飼い主や飼育環境に順応していくことで馴化し、それぞれの世界を主体的に構築し続けながら独自の主観により生きている気がします。

 

柳 美里さんの「飼う人」では風変わりな生き物を飼う人々の暮らしが描かれています。

イボタガ、ウーパールーパー、イエアメガエル、ツマグロヒョウモン

昆虫や両生類が登場しますが、それらは癒しを得るための愛玩動物ではない存在として飼育されています。

 

ウーパールーパーは、自分にとってそれほど大切な存在ではない、と思う。

名前も付けてないし…

犬や猫や鳥みたいに、名前を付けて憶えさせて、呼び寄せたり、撫でたり、しつけたりするわけじゃないし、そんなに長くは生きないと思ったから。

三年経って、いまさら名前を付ける気持ちにもなれない。

 

 

会社をリストラされコンビニで働く男性が飼育するウーパールーパー

32歳の男性は実家で暮らし、コンビニでの業務に誠実に取り組みます。

 

水が揺れてこぼれないように細心の注意を払って一段一段下りていく。

うぱ、るぱ、うぱ、るぱ、と心の内で呟きながら-。

 

男性の暮らしにおいてウーパールーパーが明確な何かをもたらすわけではありませんが、飼育している生き物を通して自分を見つめたり自身の将来を予見したりする姿が印象的です。男性は物語の最後にウーパールーパーに名前を付けます。「アポロ」と名付けた背景にはこれから起こるであろう出来事を案じながらも、未来に対する漠然とした思慮深い祈りが込められているのではないかと考えました。

この作品を通して、それぞれの世界を構築し続けながら独自の主観により生きているのは飼育環境に馴化していく「飼育される生き物」に限らず、日々世話をする飼育者も生き物の存在を通して自身と向き合う点で例外ではないこと、そして、飼育する目的が曖昧だからこそ生まれる関係性により構築される飼育者の主観の存在を知ることができました。

 

生き物好きな方、あまり生き物に興味がない方、そのどちらでもない方、それぞれの視点から見た生き物はどのように映っていますか?身の回りの生き物を通して見た世界について、みなさんとお話しできたらいいなと思います。最後まで読んでくださりありがとうございました。