名古屋大学読書サークル

サークルメンバーがゆるりと記事を書くスペースです

夏だ、海だ、孤島だ

こんにちは。今回担当させていただきます、一年の黒谷と申します。

初回から締め切り日を勘違いしてしまい、冷や汗を流しながら急いで文章を打ち込んでいます。自分のだらしなさをふがいなく思うばかりです。

 

さて、内容についてですが、夏休みにもかかわらず外出を控えなければならない今、小説の中でだけでも遠くへ、できれば海の見えるような場所へ行きたいという一心で、「孤島」というテーマをひねり出しました。舞台が孤島であるという共通点のみで並べたため、取り上げた作品がそれぞれてんで毛色の異なったものとなってしまいましたが、どうかご容赦ください。

 

 

①デフォー『ロビンソン・クルーソー

 

 

乗っていた船が大破し、一人無人島へとたどり着いたロビンソンという男が、食糧不足、天候不順、猛獣や食人種との遭遇まで、ありとあらゆる苦難を知恵と工夫で乗り切り、生き延びてゆくというお話です。

一人ぼっちで無人島というと悲惨な感じが強いですが、その悲惨さを覆すほどの主人公のたくましさがこの本の魅力の一つだと考えています。

木製の道具作りから始めたにもかかわらず、家を作り武器を作り、生活に余裕ができてくるとお酒のような嗜好品作りに手を出し始め、遂には別荘や、防水ばっちりかつ開閉可能な傘という便利な小物まで作ってしまうほど。

初めは主人公の境遇に同情し、共に悲しんでいたはずが、いつのまにか彼のアイデアを楽しみ、自ら作り上げた王国に住む彼をうらやましく思うようになります。

助けが来るかもわからない、孤独で死と隣り合わせの状況にもかかわらず、現状を受け入れ、生活を少しでも良いものにしようとする前向きな姿勢に元気をもらえる一冊です。

 

綾辻行人十角館の殺人

 

 

打って変わってこちらは推理小説です。

十角形の奇妙な形の館がたつ孤島、角島を訪れた七人の大学生が次々に殺され、内部犯?外部犯?さて犯人はいずこ…というお話。

外部とのやり取りが遮断された閉じた場所として、孤島や悪天候の中の建物が舞台となっている推理小説はたくさんあります。被害者の逃亡阻止と犯人の限定という大きなメリットがあるためではないかなと思います。

孤島という場面設定がトリックと非常に密接に結びついていることから、今回この作品を挙げさせていただきました。とてもとても、魅力的なトリックです。大掛かりでありながら、たった一文ですべてが覆される緻密なもので、小説を読んでいて、思わずあっと言葉が出たのは後にも先にもその一文を目にした時だけです。またその衝撃が忘れられなかったことが、推理小説にはまる大きなきっかけとなりました。

語彙力の無さゆえ、またネタバレ防止のためこのようなふんわりとした紹介しかできず歯がゆいばかりですが、家にいる時間が増えた今、刺激を欲している方にはぜひぜひおすすめしたい一冊です。現在漫画版も連載されているそうなので、小説はちょっと…という方もぜひ。

 

 

 

夢野久作『瓶詰の地獄』

 

瓶詰の地獄 (角川文庫)

瓶詰の地獄 (角川文庫)

  • 作者:夢野 久作
  • 発売日: 2009/03/21
  • メディア: 文庫
 

 

こちらは読書サークルで行っている読書会内で、他のメンバーの方が紹介されているのを聞いて興味を持ち、手に取った本です。

二人の幼い兄妹が主人公となっています。乗っていた船が漂流し、無人島へとたどり着く、という展開は初めに紹介したロビンソンと変わりませんが、この島では雨風をしのげる場所があれば、食料ももともと豊富、対策すべき敵もいないという、ロビンソンの島に比べるとまさに天国のような島です。なにより、孤独と戦ったロビンソンに対し、彼らにはおしゃべりができる相手がいます。

豊かな島で、何不自由なく育ち、問題なく助けを迎えるかに見えた二人には、しかし、余裕のある暮らしを二人で送っているからこその問題が立ちはだかり、追い詰めてゆきます。

何が幸せで、何が不幸につながるかは終わってみないと分からないものだ、ということをしみじみと感じました。

少し倫理的によろしくないかもしれない要素が含まれていますが、そのぶん退廃的な美しさのある物語だと思います。あまり抵抗がない、どんとこいという方はぜひ。

 

 

いかがでしたでしょうか。あまり遠くへ行けない今だからこそ、無人島や人殺しのいる島など、本来ならありえないような場所への旅を本の中で楽しむ、というのも悪くないのではないかと思います。

テーマを決めて書き始めたはずが、かなりとりとめのない文章が出来上がってしまいました。このような拙い文章を最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

 

文:黒谷

本:デフォー『ロビンソン・クルーソー

  綾辻行人十角館の殺人

  夢野久作『瓶詰の地獄』