名古屋大学読書サークル

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妙な小説が好きというはなし

こんにちは。

今回の担当は3年の野溝です。3年生多いですね。偶然かな?

 

みなさんはどんな本が好きですか。

 

どんなと言われても困るかもしれないですね。小説をよく読む人なら森見登美彦が好きとか、ミステリーが好きとか、古い文体が好きとか、どんでん返しのある展開が好きとか、人によりさまざまあると思います。もちろん小説以外のブルーバックスだとかエッセイだとか絵本、ビジネス書なんかもあるでしょう。

私はどれも好きです。残念なことに森見登美彦によって古い文体で書かれたどんでん返しのあるミステリーは見たことがないのですが、もし知っている人がいたら教えてください。

 

さて、今回は物語の内容ではなく、技法というか、私の思う本ならではの面白さをメインに書こうと思います。

私はさっき挙げたような小説が好きですが、本という形態でないと出来ない表現の本や、独特の存在感をもつ変な小説も大好きです。

そもそもドラマ化、漫画化などでメディアが変わればどんな話でも受け取り方が変わってしまうので、そういう意味ではあらゆる小説が本という形でしかその味わいを保てないと言えます。このような例をみると本には本であるだけで宿る幾分かの価値があることを意識させられます。

最近ではスマホの漫画やYouTubeも普及し、手軽に物語を楽しむために必ずしも小説である必要が一層なくなってきています。中高では何度となく電子書籍と紙の本(辞書のパターンもありました)のどちらが良いかを議論せよと言われ、そのたびに紙の本派が実用の点で押されていましたが、電子媒体か否かはいったん置いておくとしても、本にしかない魅力があるはずだという思いは消えません。

また、本は漫画や映画に比べてどうしても情報量が少なくなります。それは決して悪いことではなく、むしろ画像では表現が難しい、夢のような奇妙な感覚をもたらす効果を付与することができます。

 

とまあなんとも説明が抽象的で下手なので、いくつか例に挙げて紹介しつつ私が如何にしてこの方向にはまっていったかを追いかけていこうと思います。

※以降紹介する本では一部内容に触れるため軽いネタバレがあります。本筋を読むのに支障が出ない程度にはしましたが、未読で読む予定のある方は注意してください※

 

放課後はミステリーとともに 東川篤哉

www.j-n.co.jp

 この本では、主語によって読者に性別を誤認させるという手法が使われています。すぐに誤解は解けるので物語の根幹にかかわるものではないのですが、この出だしの不意打ちでキャラクターの魅力が印象的になり、話の中にぐっと引き込まれます。

 もっともこの小説はドラマ化していてこのドッキリもうまく再現されているようなので、本でしかできないというわけではないのですが、これを読んだのが中学生に上がった頃で、本そのものの面白さということに興味を持ったきっかけとなりました。

 

キノの旅 時雨沢恵一

dengekibunko.jp

 この作品は2回のアニメ化、漫画化、新聞連載、作者本人による二次創作、その漫画化などがされており、20年以上続巻が出ているちょっと有名なライトノベルなので知っている人も多いかもしれません。

内容は若い主人公キノが世界を旅していろいろな”国”を巡っていくという大枠に沿った"国"ごとの話の短編集仕立てで、これもとても面白いのですが、本編以外で、下手すれば本編より作者の熱が入っている読みどころがもう一つあります。

あとがきです。作者はあとがきのアニメ化を一つの夢として、冗談なのか本気なのか語るほどこだわりをもっていて、続巻が出たら本編よりも最初に確認したくなるほどです。

そんなあとがきの内容はというと、その本の成分表示と取扱説明書が書いてあったり、短編が書いてあったり、全く違う内容の架空の本のネタバレあとがきだったりします。ただ”あと”に書いてあるだけでなく、本編中に突然出現したり、何もないと思ったらカバー裏に”うらがき”があったり、1ページ目にいきなりあったりします。こういう遊び方は文庫本の形態でなければありえなかったものがあり、本というメディアの絶対的な価値を感じさせるものです。

あとがきという文化は本や漫画くらいにしかないものと思いますが、作者本人をほんの一面でも読者に直接見せる場であり、作風とならんで作者らしさが出てくる部分です。高校の図書室でこのシリーズを読み漁るようになってから、他の本もあとがきや作者紹介までじっくり読むようになりました。

 

・実験小説ぬ 浅暮三文

https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334739119

 いままでで読んだ本の中で一番変な存在感と表現の両方をもつ本がこれです。裏表紙のあらすじ欄には「奇想天外、空前絶後のたくらみに満ちた作品の数々」「魔術的大作」と大層なことが書いてありますが、実際内容も奇妙な浮遊感や迫る恐怖を感じたり、読んでいるうちに感覚がおかしくなってくるような話が多く読めば納得する文句です。内容に限らずタイトルや表紙もまた強烈な変な存在感を放っています。

構造としても、文中に黒い丸(●)があって、そこからページを抜けて裏面の同じ場所に印刷されている●へぬるりと通り抜けるといった、手元の本の上で話が広がっていく表現や、ゲームブックのように段落に番号が振ってあって行ったり来たりしながら読む話など、本でなければ活きてこない表現がいろいろ出てきて、まさに小説の表現を追求する実験のようです。ゲームブックはやみねかおるの「都会のトム&ソーヤー」シリーズにも何冊かありますが、「実験小説ぬ」のいいところは標本箱のようにいろんな短編が詰まってるところです。

この本は大学生になってから見つけた本で、これ以降は面白いレイアウト・構造の本に会えていません。ここ数年はあまり本を読んでいないというのもありますが、没入して夢を見るような小説ならまだしも、本の構造となると小説のストーリーを楽しむという本流からはズレた部分なので書こうとする人がそもそもいないのかもしれないですね。しょうがないので支流でちゃぷちゃぷと少ない供給を漁るしかありません。恩田陸の夢違などは幻惑的な怖さという点では独特で際立っていると思いましたし、変な雰囲気をじっくり味わいましたが、この本を見つけた後に読み直すと構造的存在感という点からは物足りない。

 

ミステリーが読みたいときはミステリーの書棚で探せばいいわけですが、妙な本、変な本というのは本棚では簡単に見つからないのでいつも突然の出会いになります。

それはそれでとても楽しいのですが、待ちきれないので探す場所をインターネットに移すことにしました。便利な世の中ってやつですね。

いまだこれだという本にはたどり着けていないのですが、変な雰囲気をもつ本に通ずる「奇書」を紹介する面白い動画シリーズを見つけたので、それを紹介してこのクソ長い記事を切り上げようと思います。

 

・世界の奇書をゆっくり解説 三崎律日@Alt+F4 (niconico動画、YouTube

本というよりも広い”書”のくくりですが、毎回一つの奇書について、内容や書かれた背景、関連する歴史や思想についてわかりやすくまとまっています。ゆっくりボイスが苦手ではない人は、ぜひ一度見てみてください。 

 

 

こうしてまとめてみると自分の読書傾向が客観的にみられて面白いですね。

最初から最後まで自分の事ばかりで読んでくれた人が面白いかは微妙な感じになってしまいましたが、最後までよんでくれてありがとうございます。

乱文長文失礼しました。